●角地を押さえる
日本橋人形町。東京案内の本に必ず登場する有名店が数多くあるだけでなく、企業が軒を連ねる町でもある。観光名所とオフィスが混在するその一角に、須賀屋果実店が出店して40年になる。店のはす向かいには地下鉄人形町駅A2出入口。 「店を出すときには角地に出店したい。そう思ってずうっと探していたんです。もう、出すなら角地と」。オーナーの須賀さきゑさんは、夫と共に立地にこだわった昔を思い出す。高度成長期には、駅前の角地には必ずといってよいほど果物店があった。店を出すなら果物店といわれたほど、果物の高度成長期でもあったのだ。探しに探して、縁あってめぐり合ったのが人形町。まだ地下鉄の駅はなかったが、希望通りの角地だった。池袋から引っ越してきて商売を始めたわけだが、当時競合店は7店もあったという。
居並ぶライバル先輩店に揉まれ、健闘を続けた。やがて地下鉄開通の噂が聞こえ、「どこが出入口になるんだろうと思っていたら、目の前の場所が開いて」。
出入口の方向により、人の流れは左右される。気になっていた出入口の向きは須賀屋果実店に有利に開いた。商売をするならば「駅前の角地」、須賀夫妻の選んだ場所は数年後、どんぴしゃりそうなった。
角地の利点はほかにもある。車を止めやすいのだ。交差点の手前なので、長時間停車するわけにはいかない。ドライバーは大急ぎで注文するし、店側は手早く応対、包装、精算をしなくてはならない。
「ぱっと車を止めて入ってくるお客さんは多いですよ。大抵お見舞い用に買っていかれます」。実のところ人形町付近には大きな病院はない。最寄の病院は数km先にある築地の聖路加病院になる。そこに向かう途中か、他の病院に行く道中で車を止めやすい果物店を発見して飛び込んでくる、というお客さんが多いようなのだ。
選ばれる見舞い用フルーツは以前はメロンが多かったが、最近はイチゴ、ブドウへと移行してきている。切り分けなくてはならないメロンより、洗えば手軽に食べられる果物のほうが好まれる傾向がある。進物も、形式的なものから「価値ある一品もの」に変わりつつある。したがって、同店でも購買客の動向を見ながら品揃えをしている。
●メーン商品の配列
「駅前、角地」という商売上の立地条件には恵まれた。では、購買客から見た商品群はどうか。
3年前に店舗を改装した。売場面積は49.5平方メートル。入口は正面から見て右と左の二手に分かれ、真正面はガラス窓。窓の前には張り出した陳列棚を据え、袋詰めミカンなどの季節商品が並ぶ。右手入口側にも張出し陳列棚を設け、1本売りや3〜4本に小分けしたバナナを並べてある。
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個売り、進物用など多種類あって選びやすい。
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専門店として、味のよさで信頼される品揃えをめざす。
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店内は右手にジュース、缶詰、ドライフルーツなどを陳列し、左手にはゼリー、進物セット、メロン、干し柿などを揃えている。店内正面奥には冷蔵陳列棚。カットフルーツをはじめ、リンゴ、イチゴ、ブドウなどが整然と並べてある。入口を二分する正面ガラス窓の裏には、島陳列の棚。旬のお勧め果物が並ぶ。
商品陳列のポイントは「配色」。赤いものの隣には緑のものなどを置いて、同系色に偏らせず一つ一つの果物が目立つ陳列を考えている。陳列棚の高さは50cm程度。人の目の高さを想定して特注で作らせた。
「去年までは左右壁面の棚いっぱいに缶詰を並べていたのですが、ほとんど撤去しました」とは後継者の須賀一成さん。1998年11月に食品会社を退職し、店を継いだ。後継者の行った改革の手始めは缶詰撤去。缶詰はあまり売れないそうで、最近はジュースに力を入れている。今の売れ筋はテレビや雑誌で話題のザクロ-ジュースだ。店先には「カリンシロップ入荷しました」と、新着商品のお知らせも出している。
三男である一成さんが家業を継いだのは、自分の意志。須賀家の三兄弟は子供時代から休みの時には親について行き、神田市場で仕入れを見てきた。イチゴやバナナといった色鮮やかな花形商品がまず入荷して、母が店を開ける。それから旬の商品を父が持ち帰ってくる。両親の働く姿をじかに見、自分も手伝って育ったという。
その父親は1983年、52歳の若さで亡くなった。兄たちはすでに社会人となり、一成さんは大学受験生。その後、神田市場から大田市場へ移転したが、仕入れの部分は仲卸に依頼し、母がほとんど一人で店を切り盛りした。一成さんは大学の授業の合間や休みの時に店番を手伝い、会社員になった後も土曜日には大田市場に出かけ、仕入れもしていた。「いずれは継ごうと思っていたんです」
店を継いでからは一成さんが大田市場に出向くようになった。店頭で売れる商品を把握したうえで仕入れに行くわけだから、「見て仕入れする商売に変わったので、チャンス・ロスがなくなった」と言う。
柿は多くの種類を扱っているが、1999年秋は柿の中でも次郎柿がとにかくよく売れた。ディスプレイに苦心しながら島型の棚に並べたものだ。売れる商品、売りたい商品をどこに陳列するか。配色を考えた陳列は、店を切り盛りする全員で行っている。入店客の目を引きつける陳列と、自店ならではのセンスを生かした陳列、品揃えをする。並べ方によって売行きも変わるという。
オーナーと後継者は、売れ筋商品を仕入れるだけでなく、バラエティに富んだ品揃えを心がけている。どこにもないもの、八百屋さんにもスーパーにもないものを置くのが専門店の特色だ。季節外れでも珍しいものを置く。その言葉通り、12月のある日の陳列棚のてっぺんには、「高知温室くろしおすいか」が柿に囲まれて濃い緑をひときわ目立たせていた。
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原産地をきちんと表示している。
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よそにはないものがあるということは、顧客にも定評がある。文旦を見たものの買わずに帰った人が再び来店して、一言。「ああ、やっぱりここにあった。あの時買っておけば良かった。ほかで探しても見つからなくて」。最近ではテレビ局が番組で伊予柑を取り上げるため、在庫を問い合わせてきた。近隣で扱う店が見当たらず、須賀屋果実店に声がかかったようだ。まさに知る人ぞ知るの存在だ。だから競合店は百貨店と日本橋・銀座界隈の専門店。「そうした店よりリーズナブルな価格で珍しいものを置いている。一つからでも買える」のが店のモットーだ。
いまや付近に競合店はいない。出店当時のライバル店は後継者問題等で閉店してしまった。
●土地柄をにらみつつ全面対応
営業時間は以前より30分延長して、午前9時40分開店、21時閉店にした。時間帯に関係なく頻繁に顧客が出入りする。夜は40〜50代が中心で、昼は若い人が多いという。利用客は会社関係、近隣の住人など様々。近隣客には一人暮らしの老人も多く、単身者には小分け売りが好評だそうだ。
一人暮らしの人は、たくさん買っても食べきれない。だからそれに対応するため小分け販売にしている。バナナだけでなく、ミカンの1個売りを筆頭に、柿もリンゴもバラ売りをしている。ミカンの場合、産地、種類、サイズなどに分類しているが、1個売りも産地ごとに何種類か揃えている。品質を説明するPOPなども店頭に張り、どこで生産されたものかも明示してある。
値段表示も1個いくら、3本いくら、1袋いくらときちんと書いてあり、少量買いの人も店内に入りやすい雰囲気作りをしている。また、値札には産地や、旬であることの説明を書き込んだりするほか、「今おいしいです」とか「甘い甘い」など顧客を誘い込むメッセージも入れてある。セットものには「ご進物に最適」といった購買意欲をかきたてる一言も。手書きの値札が多い中、後継者がパソコンで製作した値札も並んでいる。
こういった単品買いが気楽にできることから、夏場はOLがカットフルーツやゼリー類をよく買っていくという。
接客は気軽に入りやすく、買いやすくの雰囲気を大切にしている。入店してきた人には丁寧に「いらっしゃいませ」と声をかけている。きめ細かに商品説明も行う。顧客が選んだ商品が贈答品なら、熨斗が必要かどうかを確認する。当たり前といえば当たり前。しかし、商売の基本姿勢だ。
「一人一人のお客様に丁寧に」という姿勢は、道を尋ねてきた人に対しても変わらない。人形町には東京有数の有名店が多く、一日に何度も同じ道順を聞かれる。角地で、声をかけやすい雰囲気なのだろう。自店の客ではない人にも、丁寧に対応している。道を聞いた人が、帰りに寄って御礼がてら買うこともあるという。
個人客に配慮をする一方、会社関係への品揃えも欠かさない。贈答用のメロンやイチゴなどの箱ものや籠ものは常時用意してある。ビジネス街が近いので、季節季節には贈答用商品の注文が集中する。特に年明け5日。仕事始めの日には挨拶に出向く先にミカンの小箱を持参する会社が多く、年末のうちにまとめて注文が来る。会社関係は大口客だ。バブルの頃は、須賀屋果実店の売上最高を記録するほどビジネス街からの贈答注文が引きもきらずだったが、はじけてからはかなり注文が減少したという。
季節の贈答はビジネス街だけでなく、個人客の利用も多い。こちらは新年2日が忙しい。この日は年始の手土産に、箱詰めのイチゴを買い求める顧客が来店する。
ビジネス街の大口客が贈答用に購入する商品と、近隣の個人客や長年の常連客がおつかい物にする商品、それから近隣客が家庭用に買う単品。季節と売れ筋を考えながら幅広い対応の商売を続けている。
今後は、果物の加工や飲食に手を広げていくことなども視野に入れていくそうだ。(E.N)
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