大阪・梅田駅から地下鉄四つ橋線で約15分の北加賀屋駅。駅周辺に立ち並ぶ高層住宅やマンションの間を5分ほど歩くと、アーケードの入り口が見える。中は、7つの商店街を結ぶ長いアーケードが続き、中程の「センターロード」に、(株)田中屋がある。
商店街にある果物専門店で、1日の売上げは100万円。店頭には、圧倒される量の果物が並ぶ。これが、閉店時にはすっかりなくなる。
田中屋の田中宏和社長は、1961年生まれの37歳。父の後を受けて、地域に密着した商売で、お客さんから絶大な支持を得ている。
その田中社長にインタビューした。
●商品の良さと価格でアピール
――周辺に市営住宅などが立ち並んでいますが、客層はいかがですか。
「もともと大阪・南港に隣接する地域だったが、南港がどんどん埋め立てられていき(1002haに及ぶ埋め立て事業が95年度に完成)、その跡地に市営住宅などが立ち並んだ。人口密度は高い。
大型店が周辺にはたくさんあり、激戦の地域なので、一般的に商品の価格は安いと思う。ここも、若い世代のお客さんは1ヵ所で品物が揃うスーパーなどに流れ、商店街には年輩の方が多い」
――お客さんのニーズはどうですか。
「野菜のように、調理方法をアドバイスして売るとか、若い世代向けにサラダ類を薦めるとか、いろいろな販売方法があるかもしれないが、果物の場合はそうはいかない。
私は、商品の良さと価格でお客さんにアピールしている。ただ、果物専門店なので、どうしても大盛りになってしまう。ボリューム感で見せて売るというのがポリシーだ。少量ならば、スーパーで買って下さいという気持ちで販売している」
――世帯構成数から見て、量は多くないですか。
「そうかもしれない。しかし、その店なりの売り方があると思う。今の時代、小家族になり、少量多品種のニーズに合わせて売る傾向が一般的と言われているが、逆に『力(量)でモノを売りたい』という自店なりのポリシーを持って、それをお客さんにアピールしていくことも大事ではないか。
付加価値や講釈をつけて高く売るよりも、いい果物そのものを、安く大量に売るのが私の店のやり方で、『ずばり値段見て下さい。味を見て下さい』との姿勢で商売している。
大型店と違って、私の店には『プロ』が立っている。お客さんに、『これはどうですか』と聞かれたら、必ず満足のいく回答で対応していると自負している。だから、黙って買っていくお客さんは少ない」
――プロが立っているということですが、従業員教育はいかがですか。
「果物店のプロとは、一日中店頭に立って、果物を見て、お客さんに接していく中で、体で自然に覚えることであって、たとえば、メロンを毎日さわっている人なら、どのメロンがおいしいか、また試食用に、メロンをどんどん切ることで、本物を体で知っていくと思う。
『このメロンはこういうメロンで、だからこうおいしい』ということを説明しなさい、などということは、一切従業員には言っていない。自分なりの売り方とすすめ方で売って下さい、と常に言っている。
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皿盛りは500円〜600円が多い。大きなプライスカードで安さを印象づける。
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カット西瓜は金額が50〜100円単位で小刻みに上がり、好きなサイズを選べるように豊富に揃えている。
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ただ、経営などについての勉強は別だが」
――品揃え、仕入れに関してどうですか。
「品揃えは完璧だと自分では思っている。ただ、珍しい物、他店にない商品で勝負をするとか、付加価値をつけて高く売るとか、そういうことではなく、スーパーの特売チラシにも掲載されているような、今が旬の一番おいしい果物で、それをなおかつ安く販売していく。商品に対しては、『いつも正面からぶつかっていきたい』と思っている。
『果物で季節を感じる』とよく言うが、それは、その季節になると、『これを食べたい』と自然に要求することだと思う。それを売っていきたい」
●当日売り切り主義で好売上げ
――本店だけで売上げが3億円以上と、素晴らしい業績ですね。
「専門店のよさを生かした対面(店頭)販売で、ここまでやれるという元気さを証明したいと思ってがんばっている。中元、歳暮の時期は、日頃のお客様がギフトにも利用してくれるので、大変ありがたい。忙しくても張り合いがある」
――従業員も同じ意識なんですね。
「商売だから、『儲けたい』という気持ちはもちろんあると思うが、それより仕入れた商品をその日のうちに売り切りたいという意識の方が、みんなとても強い。私も、『とにかく完売して、次の日も仕入れに行かせてくれ』ということをよく言う。
ただ、価格は大事なことだが、安かろう悪かろうではいけない。いくら安くても、味が悪ければ、果物専門店として恥になることだと思っている」
――定休日(木曜日)の前日の午後はすごくにぎわうそうですが。
「たとえばイチゴの場合、『もう1時間この値段で売っとっても、売れんねんけどなあ』というところで半額にする。後で、あのイチゴは1時間そのままで置いていても売れただろうとは思うが、半額にしたことで、他の商品も一緒に売れていく。
これは、父の代からのやり方だが、お客さんも期待しているし、今は、水曜日の夕方は、田中屋は安くなると、口コミで広がっている」
――店舗についてはいかがですか。
「店自体は、着飾っていない。父の口癖は、『店いうのは、商品で店をつくるんや。商品をドッと並べて、力で商品を見せるんだ』だった。その感覚を忘れずに続けている。開店時は商品がドッと並んでいて、夕方にはすっかりなくなるという商売を大事にしていきたい。そして、生活に密着したところで商売しているという気持ちを常に忘れずにいたい。
だが、シャッターや看板など古くなったところもあるので、今年の10月に改装を予定している」
――大幅な改装ですか。
「雰囲気はそのまま残しながら、店の中に気軽に入ってもらえるような店にしたい。今、混む時間帯は、店頭がまさに戦争状態になるので、お客さんにもう少し余裕のある買い物をしてもらえるよう工夫したい。参考にするために、今、全国のいろんな店を視察している」
――視察にはよく行きますか。
「特に東京方面にはよく出かける。そして、じっくりと話を聞かせてもらっている。店の外見だけでは、経営者の考え方はわからないので。
感じるのは、卸サイドのバックアップ体制が、システム的に、東京と比べて大阪は完璧に遅れているということだ。大阪も、そのあたりをもっと勉強していく必要があると思う。
たとえば、私たちは商品を売るのが仕事であり、足りないものがあるからと市場まででかける時間はもったいない。卸サイドが、小売店で売っている商品を把握し、足りない物は補給に来る、とシステムが東京は進んでいる。
もちろん、これは1軒の果物屋では対応できない。果物屋がある程度集まり、グループ化して、卸を動かしていくことが大事だと思う」
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日頃の果物がおいしければ贈答にも多く利用される。
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「田中屋特選」で、こんなお得なプライスも。
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●仲卸と小売との信頼関係が大事
――卸の役割は、どう考えますか。
「仲卸と小売の間には密着した交流が必要だと思う。ただ、私が思うには、大阪は、仲卸と小売に、どうしても一線が引かれてしまっている。商売だから仕方ないことかもしれないが、その一線がある限り、お互いに『密着』するところまではいかないのではないか。こちらから仲卸へ近づくと、身構えてしまうような雰囲気を感じる。
『うちはこの値段で買ったのだから、いくらで買ってくれるのか』というやりとりで、東京のほうはシビアだ。大阪は、『まけとけ、まけてえや』というのが必ずあって、仲卸もそれに応えなければならないという風潮があると思う。
私は、仲卸は絶対に必要だと思っている。
農家では『上から下まで』の商品を生産する。Mサイズが売れるからそれだけ下さいという訳にはいかない。しかし、小売にすれば売れ筋が欲しいので、『ええとこ抜き』をしたがる。仲卸のシステムは、それぞれの店に適した、また欲している商品を提供することにあると思う。
極論だが、仲卸がいれば、車はいらない。もちろん信頼関係が前提になるが、商品は、仲卸からどんどん送ってもらえば、電話一本で済んでしまう。車一台の経費が浮いた分で、お客さんに還元することができるのではないか。付加価値も大事かもしれないが、消費者に、いいものを安く提供していく努力が必要だと私は思う。
不景気で売れないからもっとサービスしてくれ、と仲卸にいうのは筋違いだ。自分の努力が大事で、経費を見直して、削減できるものは何かを常に考え、その分少しでも安くして、お客さんに喜んでもらう。
何万円もする商品を1個買ってきて、それが売れたから今日はもういいんやという考え方は、大阪商人にあるまじき行為だと思う。(笑)」
●ぎりぎりのところにいると思って
――お店を継ごうと思われたのは。
「店を継ぐと決心した記憶はなく、商売している家に生まれてきた子供は、商売を手伝うのが当たり前との意識でやってきた。学校を卒業してから、2年ほど他店へ修業に行き、結婚を機に支店(粉浜店)を任され、父が体調を崩して本店に戻るまで、5年ぐらい続けた。
支店の時は、今考えたら、『ようあそこまで反抗したな』というぐらい、父のやり方とは全然違うことをしていた。同じことをやっても勝てないし、同じ卸で仕入れても絶対勝てないことはわかっていたので、他の市場で仕入れたりした。しかし、そのおかげで、顔が広くなり、つきあいも広がった」
――販売に関してはどうですか。
「今から10年ぐらい前は、よく売れた時代だったが、いまは全然違う。だからこそ、しっかりと勉強する必要があると思う。
大型店も勉強しはじめている。だから、それ以上に勉強し、自分は生き残るという自覚を常にもつ必要がある。いつも、自分はぎりぎりのところにいるという気持ちを絶対に忘れない。事実、自分が常にぎりぎりのところにいると思っている」
――業務用の納品はいかがですか。
「現在、病院や学校など24社に納入している。父の代から納入していた病院が、ある時期、給食を賄えなくなり、委託しはじめた。それで、間に病院給食の業者が入ったため、取引が全くなくなったことがあった。
ところが、その病院が「やっぱり田中屋さんの果物がいい」ということになり、今度は業者から、もう一度入れてくれるように言われた。その時に、他に8社ほど紹介され、それから、業務用の納入も増えてきた」
――味を大事にしてきたことの証(あかし)になりますね。
「そうだと思う。業務用についても、店頭で売っている商品を入院患者さんにも届けたいと思いでやってきたが、それをわかっていただくことができた。こういうときに商売を続けてきてよかったと実感する。
――最後に、今後の抱負を。
「スーパーなどの大型店で売っている果物と専門店の果物は違う、という責任と自覚を持って、果物専門店をさらに地位あるものにしていくために、果物についてさらに勉強し、販売していく。私は、いつもそういう気持ちでいたい。
専門店しかできない、専門店だからできるということを、これからどんどんやっていきたい」
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