地域おこしに貢献景勝地「多摩湖」でシリーズ化
東京近郊のベッドタウン、東大和市にある和洋菓子店「ニューあむーる」の名物は、近くにある多摩湖をネーミングに用いたオリジナル和菓子のシリーズ「多摩湖銘菓選」である。
「菓子のオリンピック」ともいえる全国菓子大博覧会で89年に「多摩湖畔」を出品し名誉総裁賞、93年には「多摩湖もなか」で内閣総理大臣賞を受賞している。
「東京から里帰りするときに、土産に困るという話をきき、それならば地域の特徴を生かした郷土菓子を作ってみようということになりました。この辺りは多摩湖の名で親しまれている村山貯水池や西武球場、西武園遊園地などがあって、緑が多く残っている住みやすい所です。東大和市の景勝地といわれてまず思いつくのが新東京百景にも選ばれている多摩湖ですから、お土産に持ち帰って、多摩湖はこういうところだと会話が弾む糸口になればと思って販売を始めました」(田畑睦枝夫人)
包装紙も多摩地区に咲くカタバミ等の可憐な野草をあしらったもので、贈答箱には多摩湖の村山取水場をあしらった写真入りはがきが入っている。はがきは多摩湖と桜の風景や冬の雪景色など春夏秋冬の4枚。この写真を見て多摩湖を知ってもらえるように、また、贈られた人から贈り主への返礼用にも利用できるようにと配慮されている。
写真は田畑勝正社長自ら撮影したものだ。事務所には昔からの愛用名機が並んでいるほどに写真は長年の趣味。その腕前が販売促進にも活かされる結果になった。
菓子を通じて地域おこしに協力したとして、東大和市長からも感謝状を受けている。海外への土産にも利用され、「湖畔の町からのおいしいお菓子」としてすっかり地元の人にも定着している。また、贈った先からおいしかったと再注文がくることも多く、ときには海外から注文が舞い込む。
清潔で整理整頓が行き届いた店内
ニューあむーるは西武新宿線で西武新宿駅より約45分の小川駅より徒歩20分、東大和栄商店街の中程にある。といっても、交通量の多い、大型バス2台がすれ違うのがやっとという狭い道路沿いに商店が立ち並ぶ形で、後背地は閑静な住宅地になっている。
周辺の客以外はもっぱらバス利用になる。同じ西武線沿線の東大和駅からはバスで10分、久米川駅からもバスで10分、JR中央線立川駅からは久米川行きバスで30分、いずれもバス停「ニューあむーる停留所」で降りる。目の前が株式会社ニューあむーるの本店だ。白い建物が目に鮮やかで、建物脇の赤地の看板には白抜き文字で「お菓子の家 あむーる」と書かれている。
思わず吸い寄せられるのが入口右側に設けられたショーウインドーだ。菓子博で入賞の実績がある技術をいかんなく発揮した菓子細工が飾られ、目を楽しませてくれる。ガラス張りになっているので、外から広い店内が見えるが、明るく、美しく、入りやすい雰囲気がある。
店内に入ると外から想像していたよりもずっと広くてゆったりしている。外側からは白い愛らしい建物というイメージがあるが、売場全体の面積は90u。この広い空間を活かして、中央が洋菓子のケース、左が郷土菓子など和菓子のケース、右がチョコレート菓子など仕入菓子を中心としたコーナーになっている。天井には広い大型の蛍光灯照明を設置し、その周辺にスポット的に埋め込んだ照明は白熱電灯、各ケースの上方には一直線に飾り電球を配置している。これらの照明が一体となって、商品をグレードアップし、よりおいしそうに見せている。照明一つとっても、菓子たちの「晴れ舞台」という雰囲気が演出されていて、自ら作った菓子たちをいかに魅力的に見せるかという熱意が伝わってくる。
菓子にはすべて多摩湖のマークが入り、POPも多摩湖の図柄入りのもので統一、100円で販売しているオリジナル小皿も多摩湖をあしらったものといった具合に徹底して地域の景勝地、多摩湖をアピールしている。
和洋菓子ともに独創性ある商品を工夫
和菓子は、郷土銘菓コーナーに自慢の「多摩湖シリーズ」ほか、オリジナル菓子が十数種並んでいる。受賞した多摩湖、多摩湖もなかを始め、多摩湖畔、多摩小町、湖畔日記、カスターなど。包材もその菓子のイメージに合わせて工夫されている。
「このようなとき ぜひどうぞ!」と書かれているPOPには、お年賀、新年会、成人の日、入学祝、入社祝、ひな祭り、卒業祝、同窓会、子供の日、母の日、快気祝、謝恩会、結婚引き出物、新築祝、七五三、忘年会、クリスマス、誕生日などがあげられているが、来店する度にこれを目にしていると、こうした機会にニューあむーるを思い出すという効果もあるようである。
和菓子はどちらかといえば贈答利用が多いが、洋菓子は自家用が多い。郊外に立地し、周辺には子供が小さい家族も多かったことから、創業まもなくから洋菓子も始めた。和・洋菓子を扱うことが「お菓子の家」という相乗効果にもなって客を呼んでいる。フリーダイヤルを利用して、デコレーションケーキの予約宅配システムを実施。一七種類のケーキを三サイズ3000円から5000円まで注文を受け付けるほか、パーティ用のケーキも7000円より手がけている。
これらのケーキは、桃太郎デコ、3匹のこぶたちゃんデコ、白雪姫デコといった、童話から発想を得た、子供たちが喜びそうなケーキから、ケーキグルメが喜びそうなものまで、幅広い年代、嗜好に合わせて用意されているので、好評だ。
「もともと和菓子の修業から入ったので、洋菓子もていねいな仕上げになっています」
仕入商品は全体の約1割だが、味を吟味して仕入れているので、仕入先は絞られる。キャンディーやチョコレートなどもかわいい容器に入って、しゃれたラッピングがほどこされ、1000円以下のものでもギフトになる商品がたくさん並んでいる。
洋菓子、和菓子、その他と商品選びをしているだけでも時間がかかりそうだ。このため、フロアー内には、バスでわざわざ来店してくれる客がゆっくりくつろげるように、テーブルとイスが用意されている。テーブルの上には試食用の菓子があり、お茶もサービスされる。
支店は3店とも駅前に出店
「バスで出かけてくるのはおっくうなこともある。もっと近くで買えないか、そんなお客様の声にこたえる形で直売店を出してきました」
本店のほか、それぞれ西武鉄道駅より1〜3分の場所に小川店、東大和店、玉川上水店と3つの支店を展開している。
品質と鮮度保持のため、本店工場で一括して生産するセントラルキッチン方式を採用。支店はいずれも本店より車で15分以内に配送可能な場所を選んで出店した。朝配送し、昼、夕方と追加注文分を配送している。
本店周辺は地方出身の共稼ぎ家庭が多いので、本店は朝9時から夜9時までの長時間営業を実施。地域へのサービスのため、元旦以外は年中無休を貫いている。
販売促進としては、会員カードを発行し、10%の割引サービスを実施している。会員の誕生日には同店で使用可能な500円券をお祝いとして郵送しているが、この回収率は100%近いという。顧客の数は約5000名で、年賀状、DMなどを出すほか、野球入場券プレゼントなどの各種イベントなどにも活用している。
また、自社所有ビル内に関連会社の事業としてカラオケボックス店を出店。同店のイベントして参加料1500円のケーキバイキングも実施したりした。この企画は、カラオケ客層である若年層やヤングファミリー層の来店を促進する効果をあげたが、こうした発想は菓子店としてはかなりユニークといえるだろう。
おいしさにこだわる商品作り
「社長はとても努力家だと思います。菓子の一級技能士検定は東京都では15番目という早い時期に取得しましたが、この資格を得るのはとても難しいとされているので、これだけはうちの店の誇りです」
社長が現れるまで、睦枝夫人が店の内容を説明してくださったが、言葉の端々に社長に対する信頼感があふれていた。
社長として、また、家族の長として敬う気持が、一男二女の子供たちにも浸透したのだろう。社長が製造と経営全般、夫人が経理と販売をみているが、嫁いで近くに住む長女と次女が人事管理、業務管理と役割分担されている。大学生の長男は将来、経営を継ぐつもりで、税理士や公認会計士などの資格取得も視野に入れたうえで経営学を勉強している。
製造は10年以上の職人が9人、販売はパート10人、うち4人が店長として15年以上勤務する状況ができあがっている。
田畑勝正社長は、千葉県九十九里浜から東京に出てきて和菓子職人のもとで修業し、結婚後まもない70年、現在地にほど近い場所で、間口二間の店を開業した。その後75年には現在地で店を新築、83年に店内の改装をしている。
これまでを振り返ってみて、田畑さんはこう述懐する。
「どこでもそうでしょうけど、開店後四〜5年はやはり苦労しましたね。でも、私が学んだ職人さんが数年間は手伝いに来てくれましたし、その後も人の面では苦労しませんでした。むしろ和菓子を学んできた私が必要に迫られ、見よう見まねで洋菓子を作らなければならない、そのほうがむしろ大変でした」
夫人にいわせると、創業当時から「味作り」には熱心で、おいしいものを見つけるとすぐ調べに行ったり、評判の商品をニューあむーる風に工夫したりと、職人気質を発揮してきたそうだ。
「近くに住むラジオのパーソナリティを務めている方が出張してきたおり、これはあむーるさんにはないので研究の余地があるのではないか、と土産にくださったお菓子があるのです。中にカマンベールチーズの風味が入っているという饅頭ですが、試作を重ねてようやく納得できるものができたので、その方に名付け親になってもらったら『わ
たらチーズ』というユニークな名前になりました。おいしいというお客様が多いのですが、社長からみるとまだ今一つ納得がゆかないと言って研究し続けています。職人道を追求するうえでは、素材や味にこだわって、既存商品をよりおいしくという方向に向かっています」(睦枝夫人)
乳業メーカー、油脂メーカーなど各種食材の取引先が出入りするが、田畑さんが熱心に取り組むので、率直に味のアドバイスをしてくれ、研究にも協力してくれる。油脂メーカーが開発した商品を一地域1店と設定してヒット商品に育てていくケースがあるが、その場合「地域一番店」としてニューあむーるに声をかけてくれることが多くなっている。
取引先とも良好な関係ができていることに対し、「コミュニケーションを大切にしてきたこと、それとうちの姿勢が手作りのよさを守っているからではないでしょうか」と田畑さんは分析する。
開店後、多店舗化を進めてきたが、手作りでやれる限度近いところまできているので、今後は現店舗の売上げ向上をめざしていく。
駅前の発展に比べ、ニューあむーるのある商店街はややさびれてしまった感があるが、ニューあむーるの店自体はこのところずっと二桁成長を続けてきた。このところの低成長で、伸びているといわれてきた菓子業界もマイナス成長になっているが、ニューあむーるではほぼ横ばいを保っている。売上げを再びプラスの成長に転じさせるために、贈答品により一層力を入れていくつもりである。
従業員教育とパソコン活用で発展
朝礼とマニュアルの有効活用
ニューあむーるの好調な売上げを支えているのは従業員教育によるところが大きい。
店舗は清潔だが、作業所も負けず劣らず、清潔で整理整頓が行き届いている。小売店コンクールの受賞をはじめ、東京都施設優良工場に指定され、国民金融金庫の優良店にも選ばれているが、こうした受賞が励みになって、より一層向上心を発揮している。
2階の事務所には、ニューあむーるのスローガンが書かれた額が飾られている。
「態度・能力を磨け
態度・能力は努力次第で向上する」
この後に、5つの項目が書かれていて、これらを朝礼のおりに一同で声を上げて読む。内容は、率先してあいさつをするとか、機敏な動作など、日々の生活でも役立つわかりやすいことだけに、実行可能なスローガンと受け入れられているようだ。
また、売店部が朝礼で唱和するのは接客の8大用語。「いらしゃいませ」「かしこまりました」「お待たせいたしました」「おそれいります」「しばらくお待ちください」「申し訳ございません」「失礼いたします」「ありがとうございます」を、大きな声と笑顔で心を込めていえるように、日々トレーニングをしている。
パートを含めた社員用に教育マニュアルが種々作成されている。これらはすべて社長自ら考え、ワープロで作成したもので、これまでの経験などをふまえ自社に合うようにアレンジした。
それぞれの項目ごとに、ステップ形式で書かれ、マニュアルといっても専門用語の羅列や、堅苦しい文章ではなく、誰でもわかるようにごくわかりやすい平易な文章で書いてある。
最初に経営方針と経営理念が述べられている。この部分を読めば、ニューあむーるが何をめざしているのかよくわかる。一言でいうなら「お客様に喜んでもらおう、そしてニューあむーるもともに伸びていこう」ということである。
例えば、入社2週間用の「トレーニングマニュアル」は、電話の出方、かけ方、仕事の手順、商品知識、製品の取扱い、包装のしかた、補充のしかた、注文書の記入法、レジ打ちの方法、伝票の書き方など業務の基礎事項が細部にわたり記されている。これらは各支店の状況に合うようにいろいろとアレンジされ、何年経ても役立つ基礎的なことばかりだ。また、「苦情処理マニュアル」も完備させている。
マニュアルは作成しただけでは役に立たない。従業員がよく理解して積極的に活用してこそ意味がある。マニュアルに書かれていることをしっかり理解すれば、好感度の高い接客、むだのない仕事が可能になるが、同店の従業員を見れば、マニュアルや朝礼の効果のほどがよくわかる。
従業員がやる気を示しているのも居心地がよい環境という点があげられる。90年から完全週休2日制を実施し、無料で利用できる保養所が千葉県九十九里浜にある、また、年1回の忘年会は都内の一流ホテルで開催というように、「従業員にやさしい企業」をめざしてきた。近隣から通ってくる従業員が多く、「従業員もお客様」と考えているからである。お客様、従業員、取引先すべてがよくなれば企業は伸びると考え、誰に対してもよりよいコミュニケーションをめざしている。
パソコンを上手に使う
ニューあむーるは、創業以来20数年間赤字を出したことがないのが自慢である。会社の財務会計についても財務の開示(預金の残高までも含む)ディスクロージャを実施し、ガラス張りの経理をしている。各支店は独立採算制で、各支店ごとに財務諸表を作成して目標設定しているが、数字で示すことが何よりの説得力、ということで活用しているのがパソコンである。
パソコンは各支店にも配置、経営管理、顧客管理などのほか、販売促進などにも役立てている。
「パソコンはMS−DOSの時代から取り組んできたので、ごく最近ウィンドウズの機種を導入したばかり(笑)。でも、10年前にパソコンを導入した頃は業界ではどこもまだ早いほうで、当初は不眠不休といった感じでパソコンに首っ引きで覚えました。おかげでプログラミングもできるようになったほどです。パソコンについては知る人ぞ知る存在で、この間も地方からパソコンの利用法についてききたいというほうがお見えになりました。 菓子の分野でもパソコンでもマスコミに紹介されたり、見学者が見えたりということになると、気をひきしめてますますがんばらなくてはと励みになります。
中元・歳暮時期は地方発送を前面に押し出しているのですが、これからは通信販売にも取り組んでいきたいとも考えています。ですから、インターネットなども活用していきたい」(田畑社長)
ただし、顧客管理面で注意しなければならないのは、まめに最新データのものにしておくことだそうだ。顧客名簿をもとに3000通DMを出しても300通は宛先不明で戻ってきたりする。住所の変更や、家族の変動などを定期的にチェックしていけば集めたデータも活きてくる。
「誕生日のお祝い状は住所氏名を打ち出してタックシールを貼っていたのですが、これからは手書き作戦にしてみようかとも考えています。
機械で効率よく打ち出すのは簡単ですが、手書きのよさがいいという人もいますから」(睦枝夫人)。
世の中にパソコンが普及してきたら、逆に月々それほどの手間でないものは、手書きのよさを打ち出していく。名案である。
お客様からの金賞をめざして
最後に、これからどのようにしていきたいかをたずねてみた。
「素材のよさを生かすというこだわりをもって、おいしさの追求をし続けたい。これしか我々専門店の生きる道はないと思っています。
今進物割合は6割程度ですが、進物が伸びればまだまだ二桁台はがんばれるでしょう。進物をこれから増やしていきたい。それには、地元の人に利用してもらうのが一番です。
ケーキのほうは時期的にいろいろ変わっていくけれど、定番商品としてうちを代表する商品に育った多摩湖シリーズのお菓子を開発していきたい。
東大和市には観光協会がないので、独自に商品や包材を考えて、新東京百景に選ばれた多摩湖を含む地域のPRをして地元の人に喜んでもらいたいと考えているのですよ。
付加価値のある商品を良心的に作っていきたいと今躍起になって取り組んでいるところです。
そうですね。お客様から金賞をもらえるような商品作りをしていきたい。人を感動させる、共感させる要素は共通していると思いますから、原点に返っておいしさを追求していきたい」
お客様からの金賞をもらうために、考えられた秘策の一つが「目玉商品のタイムサービス」である。
300〜500円で約2倍の商品価値があるものを限定品でタイムサービスする。これは喜ばれる企画に違いない。そうやって魅力ある販売促進をおりまぜながら、着実にニューあむーるのファンをつかんでいきたいという。
「お客様からの金賞」は、いろいろな受賞をしてきたニューあむーるにとって最高の賞になるだろう。
繁盛店のノウハウ
☆経営のあらゆる面で理念を貫く
☆従業員教育を徹底させる
☆マニュアルで業務を定型化
☆郷土色豊かなオリジナル商品を作る
☆会員カードで固定客化を図る |