●若い人にも魅力ある商品づくり
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鹿児島市一の繁華街天文館のすぐ近くに、お茶の美老園がある。1996年11月に新装なった店は、歴史ある茶補の風格を感じさせ、商店街のアーケードで建物が分断して見えるのが惜しいほどである。ちなみにこのアーケードは桜島の灰が飛んでくるための防衛策だそうだ。
店の入り口には、ソフトクリーム(抹茶とバニラ)の看板があった。新装オープンしたときに、1個200円のソフトを約1か月間100円で販売したところ、最初の3日間は1日1500個も売れたそうだ。
ソフトクリームを扱う茶舗は増えてきているが、自家製の抹茶入りシュークリームとどら焼き(ともに120円)を販売する店は珍しいのではないだろうか。これに「とびきりおいしい」という形容詞がつくと、相当店舗数が絞られてくるだろう。
本店3階で手づくりしているシュークリームは1日20〜30個で売り切れ御免、どら焼きも200個前後しか作らない。贈答よりも、自分が食べるために買いに来る人が多く、平日よく売れる。開店早々、客でにぎわったり、週末に10〜30代の若い客が多かったりというのは、ふつうの茶舗では考えにくい。だが、「お茶屋さんの作る菓子」が新たな客を作り出しているのである。 |
「若い人向けに菓子を扱いたいと思っても、菓子については素人同然。そこで、最高の材料を使いたいと専門家に伝え、レシピの指導を受けました。しかし、材料で唯一納得がゆかないのが抹茶でした。菓子の業界では最高クラスの抹茶を知ることはできましたが、この部分だけはこだわりたいと抹茶のグレードをさらにあげました。他が追随できないのはコスト的に引き合わないからでしょうね」。
そう言った後で、森睦男社長は「和菓子店が見学に来て驚きました」と少し照れながら付け加えた。シュークリームは日持ちが悪く賞味期限は当日限りなので、ご当地でしか食べられない。こうした名物があってもよさそうだ。 |
| 店頭のショーウィンドーが季節感を伝えているが、店内に入ってすぐ目につくところに春らしい彩りのスペースがあった。売場(330u)が広く、通路もゆったりしていて高級感があふれている。ひとくちにお茶といっても、煎茶の品揃えはどれにしようか迷うほどに豊富で、近年話題のシモン茶など健康茶も取り揃えられ、茶道具なども目を楽しませてくれる。 |
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●消費者の声を新商品に反映させる
こんなものも、あんなものもと見ているうちに、「何だろう」と思わせるユニークな商品名に目を止めた。
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1998年に発売したオリジナル商品「すこやか茶芽っ娘」である。JAS認定の無農薬栽培の煎茶を粉末にしたもので、手軽に茶を飲むことができて料理や菓子づくりにも好適と提案している。碾茶を石臼でひいて微粉末にした抹茶と違い、湯に溶くと鮮やかな緑色になる特徴がある。丸ごと葉を利用するので、消費者の「安全、安心、ヘルシー」な志向も満たしている。1997年鹿児島県新作観光土産品コンクール優秀賞を受賞しているが、土産物というよりオフィスや家庭など身近で利用されているという。
そして、粉末を飲みきりサイズのスティックにして5本入り、10本入りにしたものが、「きれいのたね茶−ミネラル計画」である。500ml入りペットボトルに入れて振ってもらえば手軽にお茶の飲料ができあがる。市販のお茶飲料があふれるなかで、あえて商品化したのは、若い世代に伝統文化である茶、それも鹿児島茶のおいしさを伝えたいという思いからである。2002年6月に発売後、半年で1万本を販売した。まだまだ満足のゆく数字ではないものの、有機栽培に取り組む生産者たちの励みになっている。
だが、販売が伸びたとしても、増産には限界があることも事実である。有機栽培は除草など人手がかかり、収量も約2割落ちる。お茶のうまみ成分となるアミノ酸を作り出すといわれる窒素分が不足ぎみになり、手間に見合うだけの味や品質が出にくい。このため、有機栽培を手がける生産者(鹿児島県内で20数戸)の多くは茶園の一部で取り組む程度である。したがって、「きれいのたね茶」は、生産者の思いがこもる「苦心のたね茶」かもしれない。だからこそ販売にも熱が入るのである。 |
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水のペットボトルに付け飲み方を提案 |
「きれいのたね茶」には、消費者の思いも込められている。この商品化は、市の消費生活アドバイザー十数人にモニターとなってもらい、ここ1年半に5回ほど開いた会議で出た意見がきっかけとなった。「きれいのたね茶なんて、私どもでは考えつかないネーミング」と森社長も感心する。モニター会からお茶の愛好家が交流しあう「おしゃべりサロン」が生まれ、紅茶、ハーブティーなど様々なお茶を楽しむ勉強会を随時開いている。
「利き茶物語」というしゃれたネーミングの商品を手にしたところ、「あー、それもモニターからの提案から生まれました。鹿児島で生産される産地、品種別のお茶を50gの袋に入れて5種類セットにしたものなんです。店がブレンドするのでなく、お客様が自由にブレンドできるところが楽しいでしょう。10gずつのお試しセットもあるんですよ」。案内役の森社長もアイディアを次々に具体化させ、楽しそうである。 |
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| 利き茶はお試しセットもある |
50g各600〜700円の商品だが、知覧産やぶきたは「高香旨味茶」、霧島産おくみどりは「爽香爽緑茶」などと銘打たれている。なかでも、枕崎産さえみどり「彩緑美味茶」(700円)は、「個性派煎茶8種」としてことし2月に全国誌で紹介された。日本茶インストラクター第一期生で、「僕は日本茶のソムリエ」を著した思月園(東京都北区)店主高宇政光さんが選んだものである。
●鹿児島のお茶の伝統を語り継ぐ
お茶は鹿児島県の特産である。全国の茶園面積は4万4800ha、荒茶生産量は8万4200トン(2002年)だが、鹿児島県(7360ha、1万8400トン)はいずれも静岡県(1万9700ha、3万6900トン)に次いで2位。この2県だけで全国生産の約66%を占める。静岡県がピーク時よりも1万6000トンも生産量が落ちているのに対して、鹿児島県では過去最高を記録するレベルで上昇傾向、または横ばい傾向にある。
日本一早く新茶が出る産地であるという強みをもちながらも、鹿児島県のお茶の生産が全国2位ということは意外に知られていない。それというのも、荒茶の段階で静岡茶など有名産地に送られ、ブレンドされる割合が多かったからである。静岡県の中心品種はヤブキタだが、これに鹿児島県産ユタカミドリ、アサツユ、オクミドリなど、香りや味に個性ある品種をブレンドすれば、独自の味ができあがる。ここ30年ほどは品質が向上し高い評価を得てきたにもかかわらず、鹿児島茶は「ブレンド原料に好適」というイメージが続いてきたのである。
お茶の美老園では、「さつまほまれ」に代表される鹿児島茶のブランドを売り込んできた。鹿児島市内の有名百貨店である山形屋ほか、県内、長崎市、熊本市に支店を9店もち、美老園のライバルは美老園になっている。
鹿児島茶のPRとしては、森さんが社長を務める茶の製造卸、鹿児島製茶(株)が発行する「玉手箱」という情報誌(A5版16ページ、オールカラー年2回5000部発行)を常に店で配布している。鹿児島県内の茶園訪問記事や茶の料理のほか、九州の地域や特産品なども紹介する内容で、鹿児島茶を地道に普及させていくのに役立つものとなっている。
●不況時は優秀な人材確保のチャンス
情報誌がじっくりと鹿児島茶のイメージを高めていくのに対し、外へ向けて短期に仕掛けていくには、やはりダイレクトメールが有効だろう。
同社では春と秋の感謝祭、新茶予約、夏の中元、歳暮など年5回DMを出しているが、白黒印刷のため、ややインパクトに欠けていた。これをカラー刷りに変え、透明なビニール封筒にして、インパクトのある内容にしたところ、効果は抜群だった。さらに、注文がきた分について細かく項目分けしてみると、より効果的なDMの出し方がわかってきた。
県内に向けては他社同様に粗品を付ける作戦がここ5年ほど続いているが、「新茶予約で急須をプレゼント」など魅力ある景品にし、予約特典として1割引などを行ったところ、予約の売上げは約20%向上した。
県外客の動向を見ると、昨年は注文がなかったのに、一昨年の客から大量注文が届いたりする。客数が減っても売上金額は上がった年もあった。提案型商品を打ち出すことが大事だが、どの客が、どの時期に、どういった内容に興味をもつかを分析すれば、より効果的なDM発送につながることがわかった。
これらのマーケティング分析について具体的に語ってくれたのは店長の立本学さんである。百貨店に約20年勤務した後、早期退職制度を活用し、美老園で第二のスタートを切った。以後3年経過したが、まだ45歳。不況は中小企業にとって優秀な人材を得られるチャンスでもあるという好例だろう。 「外から見ていて接客のよい店だと感じていましたが、これほどに一生懸命お客様に接していたのかと感心しました」。そのうえで、立本さんは大企業で会得したシステム的な考え方を採り入れた。「接客だけでなく、商品力、販売促進など総合的に高める必要がある」として、DMの改良など様々な提案をしたのである。
昨年(2002年)6月に提案し、早速生かされたのが、役職制度の導入である。店長補佐、課長、課長補佐、係長など役職を定め、報酬にも反映するようにした。また、入社3年目の人でも菓子の仕入れなど責任ある仕事を任せるようにしたので、仕事に励みが出て責任感も高まった。若い感覚を生かして商品提案し、売上げに結びつくことが励みになって、こまめに商品管理をするようになったそうだ。
「現在、毎日の朝礼のほか、10回の予定で月1回教育研修をしています。これを終えた後、みんなで販売マニュアルを作りましょうと提案しているところです。会社からのマニュアルの押し付けでは、なぜそれが必要なのかがわかりません。社員一人一人が会社を代表するのですから、心構えや意識の統一が大切。それを全員が納得、理解したうえでマニュアルを作成していこうと考えています」
同社でも法人需要が下がるなど、不況の影響は少なからず蒙っている。だが、社内から見直しを図っていこうという立本さんの提案は着実に効果をあげ、企業に活力を与えることにもなっている。
●2階を地域文化に貢献するスペースに
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1階の売場を見た後で、2階へ案内してもらうと、そこは、茶道教室ができる「茶室 玉翠庵」と「ギャラリー杜」になっていた。広さや設備面などからみても、貸し料金はとても引き合わない。
「2階は喫茶室にしようかとも考えましたが、いろいろなアドバイスを受け、このようにしました。長い目で見れば、これでよかったと思っています。ギャラリーへのお客様が1階で買い物をしたり、買い物客が2階のギャラリーに立ち寄ったりと相乗効果をあげているからです。私たちも多くの人たちと知り合いになることができました」
森宏子常務の説明を聞いて納得した。小売店を取材していると、店主夫人の役割が大きいが、森夫人は、卸会社や茶関連団体要職にあって多忙な森さんに代わって、立本店長とともに全体管理を行っている。
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| 2階は文化施設に。企業姿勢が伝わる |
今回、優良経営食料品小売店等全国コンクールで農林水産大臣賞を受賞し、何よりもうれしかったのは、顧客がともに喜んでくれたことだそうだ。ギャラリーを利用した二見朱実さんから寄せられたお祝いの絵手紙に、こんな文章があった。
「ギャラリーをのぞくのが楽しみです。元気をいただくのです」「なんと言っても店員の方々の接客態度が好き ほんとうに好き」
まさに、小売店冥利に尽きる。と同時に、このような店を発掘できるコンクールの意義も感じつつ、帰途についた。
(2003年2月取材) |
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| 農林水産大臣賞受賞を祝う絵手紙。喜びをともにする気持ちがあふれている。 |
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