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(財)食流機構OFSI2003年6月号に掲載したものです。写真は別のものを使い、さらに増やしているので、写真説明等は違っています。 

あゆの店きむら(木村水産株式会社)
養殖から販売まで「高品質」を確保

第12回優良経営食料品等小売店全国コンクール農林水産大臣賞
*滋賀県彦根市後三条町725  
本店 火曜日定休
キャッスルロード店 火曜日定休
 食事時間 AM11:30〜PM14:30

 

   江戸時代に井伊家35万石の城下町として栄えた彦根市は、歴史的な町並みを再現しながら、彦根城を中心に市内を回遊してもらう「街なか観光」を推進している。活気が失せていた商店街も再開発で活性化しつつある。

 彦根城の中堀にかかる京橋近くに完成した新しい商店街「夢京橋キャッスルロード」もそのひとつ。
江戸時代の町屋風の家並みが再現され、飲食店や土産物店などが軒を連ねている。ここは約10年前、道路を18mに拡幅したときに「城下町のまちなみ再生」を図って建て替えられた全長350mの商店街で完成は1998年、今では彦根市の重要な観光スポットになっている。

 この商店街の中に、あゆの店きむら京橋店がある。あゆの養殖から加工、販売まで一貫経営で手がけている店が、10年前に出した支店である。タクシーに乗ると店名だけで通じる地元の名店である。地元の客も多く来店することで、かえって観光客の信頼を得ているという。さて、どんな店なのだろう。


  木村泰造社長

 

 
 *あゆの店きむらのホームページ

  
 「本店と同じことをしていたのでは意味がない」

 
 「夢京橋キャッスルロード」の中程、店頭ショーケースに書かれた「あゆ雑炊メニュー」で思わず立ち止まる観光客も多いことだろう。あゆの佃煮などが販売されている奥に椅子席(16席)があり、あゆ雑炊を中心にセットメニューが6種類ある。

 あゆ雑炊はあゆの香りがほんのり。だしは乾燥させたあゆを用い、中にはほぐした焼きあゆも入っている。最も高いセットで1380円だから、味と価格は来店客にとって満足度が高い。店の外に行列ができることも度々なのに、飲食は昼の約2時間だけの営業というのは惜しい。これで採算が合うのだろうか。

 「メニュー自体は簡単な調理法です。でも、原材料にこだわっていますから、他店ではとても引き合わないでしょうね」
 木村泰造社長は、キャッスルロードへの出店はおおいに迷ったと打ち明けてくれた。本店と京橋店は1kmも離れていないし、車ならば数分もかからない距離であるからだ。

 「目と鼻の先に本店があり、なぜあそこに出す必要があるのかと考えました。本店と同じことをしていたのでは意味がない。そこで、実際にあゆを味わってもらい、気に入ったら買ってもらおうとあゆの雑炊を考えました。そうしたところ、予想外にヒットした。観光客は地元の人も食べにくるような店ならば安心だということで相乗効果になりました。それで、黒壁で有名な長浜にも出店し今年で5年目になります」
 
 観光客は飲食しながらカタログを見て、本店も近くにあるらしい、なんと立派な店だことと感心するかもしれない。それでは本店に行ってみよう。

 本店の裏側に加工場があり、その向こうの広大な敷地(約1万2000u)はあゆの養殖場になっている。あゆの店きむらは、養殖・鮮魚卸〜製造加工〜販売・飲食を一貫して行っている。なるほど、おいしいあゆを食べさせてくれる訳はここにあった。このような思考で、お客は納得するのである。飲食を併設した支店2店の売上げは合計で約8000万円だが、お客にアピールする貢献度は高い。
 


 「手間暇かけないとよいものはできません」

 表通りから本店を眺めたときに、裏側に養殖場があるなどとは想像もつかない。養殖を始めた頃、周辺は一面野原だったそうだ。いまは広大な敷地に、大小の120uの養殖池が40面並んでいる。
 
  全国のあゆ漁獲量1万1149トンのうち、滋賀県琵琶湖は979トン(8.8%)で1位、次いで茨城・栃木県を流れる那珂川534トン(4.8%)となっている。一方、あゆの養殖業における収穫量は全国で8003トンのうち、徳島(2014トン)、和歌山(1711トン)、滋賀県(806トン)の順になっている。
 
  あゆの養殖が提唱されたのは、天然だと小あゆのままの琵琶湖産あゆを大きく育てようとしたことがきっかけという。水質汚染など環境の変化で天然あゆが全国的に減少してきたために、40年ほど前から養殖が盛んになってきた。

 あゆの店きむらが養殖業を始めたのも1950年代に入ってからである。毎年4〜7月、琵琶湖で天然のあゆが捕れる時期、小糸漁により捕れた小あゆが店に運ばれてくる。これを一部は生鮮の〆あゆのまま箱詰めして高級需要向けに市場出荷、あるいは小あゆ煮等に加工する。残りは地下水汚染の心配がない地下300mから伊吹山の伏流水を汲み上げて水清い自然の環境を作り出した水槽に移して15〜20cmのサイズになるまで飼育していく。大きなサイズに育ったものを冷凍保存し、加工していくというサイクルである。この間、水温の調整・餌の種類・7月以降電気の日照時間を長くしてあゆの成長を遅くする(秋口になると産卵態勢に入り味が落ちるため)など様々な工夫をする。いかに天然物のうまさに近づけるかが品質の差につながる。天然のあゆは、胸びれの黄色い斑点がはっきりしているが、同社の養殖あゆは天然に近いと好評だという。
 
 同社が法人化(木村水産株式会社)したのは1970年、その2年後、本格的に製造小売を始めた。当時は養殖あゆを全国の水産市場へ出荷していたのだが、相場の低迷などであゆの養殖が構造的な不況に陥っていたのをなんとか打開したいと考えたことが契機となった。母親(現会長夫人)がご近所にお裾分けしていた佃煮が評判になっていたことも新事業へのプラスになった。

 現在でも鮮魚の出荷は売上げの20%を占めているが粗利は約5%。付加価値を高めることにより高い粗利も得られる加工の割合を80%にまで引き上げたことが企業成長の要因になっている。ここ3年ほどは5億円前後の売上げで推移しているが、極力むだを省き、減収増益を図るという姿勢で好調を維持している。

 続いて加工場へ。ちょうど小あゆ煮を炊いているところであった。これもやはり高品質な製品を造ることにこだわりをもっている。
 

 「4月頃、はしり
の時期は漁獲量が少ないので珍しさもあり単価は高い。ピークを過ぎて大量に捕れ始めてから保存食として加工を始めるという形態が多かったのです。小あゆは加工しなくても鮮魚で高く売れますからね。ところが、はしりの時期のほうが魚の品質はよいのです。ですから、多少高くとも原材料はよいものを使うということにこだわっています」

 小あゆの加工は朝7時から作業が始まり、多いときには1日2トンも加工する。シーズンを通すと天然物の加工が約40トン、養殖物約50トン。

 「一般的には100kgの大釜で早く仕上げますが、昔から私どもは10kg以下の小さな釜で何回も炊いています。手間暇をかけないとよいものはできませんから」

 ひとくちに佃煮といっても、味付けや食感に店の個性が出る。飴色に炊いた同店の「小あゆ煮」は、「川魚は苦手」「佃煮はあまり好きではない」といった人たちまでひきつけた。これと「あゆの姿煮」を二本柱として、様々な詰め合わせセットが用意されている。「あゆの南蛮漬け」も飲食店で食べてみて、購入する人が多いそうだ。

 このほか、ふなを約1年半かけて熟成させ、近江米に合わせた琵琶湖名産「鮒寿司」も製造している。

 ●「惰性に流されず考えて行動することを学びました」 


  加工段階で特筆すべきは、ことし2月にISO9000(International Organization for Standardization=国際標準化機構の品質管理及び品質保証に関する一連の国際規格)を取得したことである。それにしても、なぜ取得までに時間もコストも要するISO9000を目指したのか。
 「食の様々な問題が世間を騒がせ、危機感をもちました。手づくりの商品では、業務に携わる人間の意識向上によってレベルアップを図るしかありません。そこで、専門のコンサルタントに来てもらい、一年かけて学ぶ中で、作業工程を見直し、ひとつのマニュアル化された標準を作り上げていくことにしました。この過程で多くのことを学ぶことができ、品質向上に役立てようという目標管理ができるようになりました。水産加工業界ではISO9000の取得自体が先進的な取り組みだったため、結果的には、会社のイメージアップにもつながりました。

 今後も年2回更新の検査があり、気をゆるめることはできません。しかし、ISO9000を取得するまでの過程で、惰性に流されず考えて行動することを学びました。ややもすると、毎日同じことの繰り返しでは何も考えなくなってしまう。そこで、しなくともよいミスをすることにもなる。たえず前向きに働きかけるようにしています」
 本店の裏に加工施設がある

 このほか、食品表示やトレーサビリティへの対応などを求めてくる卸売市場もあるのでデータはしっかりととるようにしている。ホームページに養殖に用いている水質などのデータを掲載しているのは業者向け対応の意味合いもあるという。

 「数字の裏付けがあれば方向性がつかめる」と確かな手応えをつかんだようだ。

 ●「何かしら目的をもって行動することが大事」 

 養殖から加工、すべて高品質なままに推移してきた。あとは販売力である。

 「彦根観光地図」などの観光パンフレットで推奨されているおみやげは近江牛、赤かぶら漬、あゆ製品、鮒寿司。このうち2品を扱っているが、同店の場合はリピート率が高いのが特徴である。飲食店がアンテナショップ的な役割を果たしてからますますその傾向は強くなってきた。

 また、有名百貨店が実施する「味百選」などの催事には年間で20回ほど声がかかる。地方の隠れた名店を一堂に集める催しだけに来店客もグレードが高く、個人顧客獲得に大きく貢献した。ただし、催事によっては集客力に差があるし、遠方へ販売員として派遣するので採算でみればやっと引き合う程度である。とすると、イベントに参加するメリットは何だろう。

「地方のお客様とコミュニケーションが図れることです。製造や営業担当者にも行ってもらいますが、販売のプロでなくとも、作り手の思いを実直に示せば信頼を得られる。それもひとつの勉強です。催事開催地の近くのお客様にDMを出しますが、新規顧客獲得のチャンスでもあります。個人のお得意様を開拓しているのだという気持ちを常にもってもらうようにしています。何かしら目的をもって行動することが大事だと思います」

 顧客名簿に登録されているのは約2万人。DMは中元歳暮を入れ、年数回出している。DMに対する戻りは25〜30%。「私どもの味を知っている人を対象に出すので、戻りが多いのかもしれない」と木村社長は謙遜するが、この数字は驚くほどに高い。封筒の中身にひとことメッセージを添えるなどDMも工夫している。 


 「最近は贈り方のスタイルが変わってきて、たまたまうちの商品がよかったので送ろうかという人も増えてきました。こういう人にタイミングよくDMが行くとヒット率が高い。しかし、特徴としては長くおつきあいしていただいている人が多い。これは大変ありがたいことだと思います。今後も個人のお客様を大切にしていきたい」

  ●「クレームの対応で大事なのはスピードと誠心誠意の姿勢です」 

 全体における個人客の割合は約7割。目下の最大の課題は個人客を増大させていくことである。

 このため、今後はデータベースマーケティングに力を入れていく。15年前から顧客情報をデータベースで管理し、5年前に宅配会社の配送管理システムを導入した。これらをドッキングさせた形で活用させていきたいという。
 
 どの客が、いつ、どのような目的で、どの程度購入するか。これらを個別に把握できれば、的を絞り込んだDMを出せ、ヒット率をさらに高めていくことも可能になってくる。

 顧客層は40代以上の女性が多く、通販注文の約7割は関東圏から。そこで、観光客として地元で掘り起こした客、催事で新たにつかんだ客をいかにリピート客として長くつないでいくかということが課題となっている。

 そして、もうひとつ新たな顧客の開拓として注目しているのがホームページ(http://www.ayukimura.co.jp)である。2000年5月に開始し、ヒット数は月に約1000件、注文も1日平均で数件は入るようになった。
あゆの製品がいろいろ

 「ホームページはもっと充実を図ってリニューアルを考えています。意外にも、今、注文してくる人は中高年の方が多い。いままで電話で注文していたけれど、今回ネットで注文しましたと電話をかけてくる人もいましたよ(笑)。注文を受けたらすぐにメールの返事を出すようにしています。

 今後はメールマガジンを出すなど、ホームページでも固定客づくりを考えていきたい。ホームページの売上げは現段階ではたかがしれていますが、新規客をつかむ窓口としては大事だと考えています。また、BtoBの取引も会員制で手がけています」

 固定客をつかむという話のなかで、興味深く思ったのは「クレームのお客を大事にする」という言葉である。

 「クレームの対応で店の姿勢がわかります。当社としてはクレームが出たときに、そのお客様をさらに上得意にしていきたいと考え、現実にそのようにしてきました。「頼んだ日に来なかった」とか「賞味期限内なのにカビが生えた」など予想もつかないクレームがきます。私どもの責任のほか、配送会社の問題などもあります。しかし、クレームの対応で大事なのはスピードと誠心誠意の姿勢です。可能な限りすばやく返事をする。そして、嘘をついたり、責任を転嫁したりしないことです」

 木村社長の経営姿勢は社員40人全員に浸透しているように思えた。

 

 (文・川島佐登子  取材2003年6月)

 

【取材を終えて】
 彦根市の商店街がショッピング、飲食など、そぞろ歩きを楽しめる街に変身していました。木村社長さんも出資してつくったという第三セクターの店のうちの一つが、キャッスルロード内の招き猫の店だったので、個人的に招き猫を蒐集している私にとっては、思いがけずうれしい出張になりました。ここには、以前に農林水産大臣賞を受賞した千成亭さんもステーキの店を出しています。今回、あゆの店きむらやさんがコンクールに応募したのも、千成亭さんから聞いたからだそうです。彦根には他にも(財)食流機構の前身である(社)食料品流通改善協会が主催していたコンクールで農林水産大臣賞を受賞したヤマガタヤリカー(酒店)もあります。元気な店が多く、街全体で意欲的に活性化に取り組んでいるので、また行ってみたいと思いました。

 それにしても、本店のある場所は中心市街地とは離れているのですが、裏手に広大な養殖池があって驚かされました。あゆの佃煮の一般的なイメージは、味が濃く硬いというものでしたが、あゆのきむらの佃煮はやわらかくて、味もとても上品です。だからこそ全国から注文が入るのだということが納得ゆきました。