「焼酎ならば大阪屋」のイメージづくり
食料品店といえば、従来は、地域住民を販売対象としていた。だが、これからは、自店のオリジナル商品を全国へ向けて発信していくことも、専門店として選択肢の1つになるだろう。その意味で、焼酎の本場という切り札を武器に、積極的な攻めの商売をしている。宮崎市の酒販店、大阪屋はその代表例といえよう。
地元の人には、日本全国の地酒を中心に販売し、全国へ向けては、宮崎特産の芋焼酎とオリジナル焼酎を売り込む。この2段構えが功を奏して、商圏は近県にまで広がり、地方発送を依頼してくる客は全国に広がってきている。こだわり商品や特産品が注目される中、ブームを先取りする形となった。
大阪屋の経営を一言で表現すれば、「質を深めた経営」といえる。酒店が、スーパーやディスカウント店など価格競争に巻き込まれ、コンビニ店へと業態転換していく例が多い中で、専門店としての道を模索してきた。
料飲店などが密集する宮崎一の繁華街に近い橘通3丁目にある大阪屋では、かつて業務用の販売が8割を占めていた。しかし、91年の店舗改装を機に小売に重点を移すとともに、地酒、焼酎、ワインといった嗜好性の高い商品に主体を移した。
店に入ると、全国的に知名度の高い商品は、あまり見当たらない。地方でこだわって酒づくりに打ち込んでいる酒造会社の商品が圧倒的に多い。ゆったりと回遊しながら、これらの商品の中から気に入ったものを探し、試飲し、店主夫妻のアドバイスを聞きながら選び出す。客は、この店でそのような楽しさを味わえるのである。
そして、季節ごとのイベントで、客を飽きさせない。いったん顧客になると、四季折々の案内が舞い込む。
ある年の年賀状には、「夢」と大きく書かれた脇に「ことしも心浮き立つものとの出会いを求め、皆様に愛される店へと努力いたします」と文章が記されていた。「ちょっと寄ってみたい酒屋」が理想だ。具体的にはどのような店なのか坂本健太郎社長に聞いた。
専門店を追求した店づくり
―どういうきっかけから、こうした店をつくったのですか。
| 「私は、大学を卒業後、大手の食品問屋に勤務しましたが、その間に、大型店がどんどん進出してきて価格競争に入り、専門店が潰されていくのを見ていました。そのときには、専門店がどういう方向をめざせばよいのか、わからなかったのです。9年間勤めた後、79年にUターンして大阪屋に入社し、82年に養子として入籍しました。85年に経営者が急逝して、私が後を継いだのですが、酒販売の過渡期に食品会社にいたので、客観的に物を見ることができたのかもしれません。それでも、しばらくは先代の考え方を踏襲して、地域に合った業務用販売に力を入れていました。 |
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| 地元に向けては日本全国の地酒を、全戸に向けては酒屋の焼酎を売込む |
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この店は、大店法が92年に実施されることをにらんで、91年に改装しましたが、まだ、当時は、酒のデパートといった感じでした。94年頃からコンビニ店がどんどん出店してきたので、私どもは、できるだけゆっくりと買物ができる店にするよう心がけていったのです。
でも、ある新潟の清酒メーカーの人から、『まだ入りにくい感じがする。もっとゆったりしたものがあってもいいのではないか』とアドバイスされ、びっくりしました。自分たちが漠然と考えていたことをズバリと指摘されたからです。
それまでは、スチールの棚にぎゅうぎゅう詰めにして陳列していたのですが、それからは、木の温かな雰囲気を出すようにして、通路も広くとって回遊できるようにしました。コミュニケーションテーブルを作ったのも、その頃です。
店で見せる商品と業務用で売る商品とは別と考え、ウイスキーは地下に移し、価格競争に巻き込まれがちなビールも取り扱いを縮小しました。そして、ジン、ウォッカなどのスピリッツ類と各地域の焼酎や地酒、ワインなどを主体にするように切り替えたのです。
価格競争をして薄利多売をすると、量を売らなければ利益が出ない。それならば粗利が高いこだわり商品やオリジナル商品を取り扱って、販売量は少なくとも利益がとれる商売をしようということになったのです。それで、徐々にこういう店になりました」
―地酒を販売する店は、当初あまり知られていないので、とても苦労した、という話もきいています。その点はどうでした。
「91年に日本名門酒会に入ったのですが、それと時期を同じくして店を改装し、差別化、個性化を図っていたので、マスコミの取材が相次ぎ、うまく話題に乗れたという感じでした。
ここ3年ほどは、自分たちの考え方を強く打ち出してきていると思います。コンビニ店に買いに行く人は当用買いをしてもらえばよいし、うちでは説明を要する商品をじっくりと選んでもらえばよい、と思えるようになりました。試飲をしてもらうこのテーブルから、情報を発信していきたいと考えています」
―こだわりの店にしてからオリジナル商品が効果をあげていますね。
「最初のオリジナル商品は熊本のメーカーに頼んで84年に製造した日本酒でした。しかし、その後、焼酎に力を入れたこともあり、オリジナル焼酎が7品に増えました。
『都井の駒』は都井岬の馬を、『さくや媛』は髪長さくや媛をイメージして名付けましたが、このほかに、『大胆中在妙法』『味蕾』、『みゅろん』『松の蔵』『祝子』などがあります。それぞれの酒に地名や香りなどをイメージして名付けました。その内訳は、芋焼酎4種類、米焼酎2種類、栗焼酎が1種類となっています。
宮崎県は本格焼酎を生み出していますが、そのうちの9割以上が芋焼酎だということは、意外に知られていません。芋焼酎は飲みにくいというイメージがあるので、なんとかもっと知ってもらいたいとメーカーに相談する中からオリジナル商品が増えていきました。
これらの商品については、全部テイスティングできるようにしています。そうすると、お客様の出身地により、どういう酒を好むかをリサーチすることができるんです。
自分たちは小売店なので、物をつくることはできませんが、消費者の声を聞いてメーカーに伝えることはできます。オリジナル商品は今の時点では増やすつもりはなく、これから知名度を高めて、じっくりと販売していこうと考えています」
―パンフレットの酒は、すべてイラストを用いています。イラストはイメージが広がるのでいいですね。この中で1番価格の高い『松の蔵』だけが大きく描かれていますが、どれにしたらよいか迷っている人にとっては効果的です。お店が力を入れている商品だ、と一目でわかりますから。
「商品をイラストで伝えるか、写真にするかではかんかんがくがく議論しました。1年間かけていろいろ検討し、パンフレットを完成させました。
当店で1番人気があるのは、90年に最初のオリジナル焼酎として開発した『松の蔵』です。これは樫樽貯蔵10年の原酒をもとに貯蔵年数の違う数種類の原酒をブレンドしたものですが、低温発酵、低温蒸留も重要なポイントになっていて、フルーティで上品な口当たりは、吟醸酒の味わいです。こういう焼酎を飲むと、本当に奥が深い世界だと感じます」
こうしたいろいろなこだわり商品をもつことを強みとして、いろいろな販売促進活動を展開しているのである。
年間のイベントを企画
酒店の場合、酒自体では、あまり季節感がない。このため年間行事に結びつけた販売促進が必要になってくる。これらはビール会社などメーカー主導型になることが往々にしてあるが、大阪屋では、独自に1年間の催事計画をたてて実施している。
そして、これらについてDMをこまめに出すことにより、固定客の増加を図っている。
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1月 |
初売り |
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2月 |
バレンタイン、節分セット、伊予柑直送 |
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3月 |
春のワイン頒布会(5月まで) |
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4月 |
焼酎頒布会、商店会の催す商業祭り |
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5月 |
ビール頒布会(7月まで) |
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6月 |
夏の日本酒頒布会 |
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7月 |
お中元 |
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8月 |
暑気払い焼酎頒布会 |
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9月 |
秋のワイン頒布会(11月まで) |
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10月 |
神武大祭、冬の日本酒頒布会(翌年3月まで)、新奈良漬け販売 |
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11月 |
ボジョレーヌーボー、封印酒(オリジナル季節限定商品)頒布会 |
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12月 |
お歳暮、おいしいクリスマスセット |
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| ワインの品揃えが女性に人気 |
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また、食肉店とタイアップして、牛タンと焼酎のセット、鴨ロースの燻製とワインといったセット商品も開発している。これらは主にクリスマスなどのホームパーティ用に提案しているが、食肉店でも注文をとるようにしているので、互いの売上げに貢献することになる。これは5年間続いているが、ワインとおいしいパン、チーズといった組み合わせなども考えられるので、今後、こうした企画を打ち出していきたいという。
特に、クリスマスセットは好評である。
―セット商品については、どのように準備するのですか。
「クリスマスセットは、シャンペン、チーズ、クラッカー、肉類をアレンジするので、9月頃には販売計画をたてています。
前もってPRしておいて、チケットを購入してもらい、期間中に受け取りに来てもらうという方式です。『戻ったらすぐにパーティができますよ』というセットなので、毎年、問屋とワインの組み合わせをいろいろ工夫します。
同じチケットを食肉店のほうでも販売してもらっています。これは、いわば予約販売になるので、当日販売の価格よりも少し安く価格設定しています。そうすると、お客様のほうでは予約しておこうという気持ちになる。こちらも、数の予測がたてやすいというわけです。こうした企画はいろいろなものが考えられるので、これから積極的に取り組みたい分野です」
―「冬グルメ特別限定ギフト」というのもありますね。
「これは、いわば地方独特の味が楽しめるセットなんです。佐藤さんちの自慢セット、黒木さんちの自慢セットなど、約10種類を毎年用意します。佐藤さんちとは、宮崎県内にある佐藤焼酎製造場のことですが、それぞれ名前で呼ぶことでより、一層焼酎に親近感をもっていただけるのではないかと考えました。これらは3本とか6本のセットで提案しているので、宮崎県産の杉を使った木箱も用意しました。
環境問題に配慮して、その後は瓶ビールを入れたり、ワインラックにも使えますとPRして、輸送容器も有効に利用してもらえるように工夫しています。送料についても特別料金にしているので、この機会に数多く利用してみようというお客様も多いようです。
また、本格焼酎『百年の孤独』入りチョコレートぼんぼんも、なかなか入手しにくい逸品なのですが、期間限定で販売予約を受け、好評です」
―酒店で伊予柑も販売しているのですか。
「この伊予柑は生産者名が明記されているもので、毎年とても好評です。年賀状では、正月にふさわしい日本酒、それに伊予柑と、福をよぶ節分セットのご案内をしています。節分セットは厄よけの鬼ころしと鬼打豆です。
年賀状も単なる挨拶だけでなく、1〜2月の催事を織り込むようにしています。また、酒粕という関連で、味のよい奈良漬けも取り扱って好評です。これだけ定番化してくると、メーカーや問屋のほうも、積極的に協力してくれるようになりました」
このほか、各県ごとに特産のコメと酒をセットにして売り出す企画も好評を博している。宮城県産ササニシキと「浦霞」といったセットだが、これらは問屋からコメの頒布会をしないかと持ちかけられたときに考えついた。企画を考案し、それが多くの顧客から受け入れられたときの喜びは最高だ。
かつては大口の注文を受けてかなり広範囲にわたり配達していたが、その分人手を要し、人件費がかかっていた。一般客を対象にした販売では、購入が小口になるが、配達をしなくてもすむ。そこで、提案型の商品をいかに多く用意し、より多くの持ち帰り客に結びつけるかが勝負どころになる。
パソコンでデータベース・マーケティング
地方発送を多く手がける店で威力を発揮するのが、DMである。特に、大阪屋のように提案型商品が多いケースでは、DMをいかに有効に出すかが鍵を握る。
大阪屋では、91年からパソコンによる顧客管理を始めた。顧客の住所、氏名、購入商品、発送先をすべてパソコンに入力して、DMの発送に役立てている。
97年には郵便番号の7桁化に合わせてシステムをすべて入れ替えた。これにより、それまではデータの入力と発注伝票の打ち出しが別々だったのが同時に打ち込めるようになり、メンテナンスも楽になった。これらのシステムは独自に構築したのでコストはかかったが、それだけ使いやすくもなった。このシステムが将来どれだけ業務に役立つかを考えれば、思い切った投資は必要だろう。
現に、大阪屋では単なる顧客管理の域を脱し、データベース・マーケティングができるまでに活用している。
購入履歴や問い合わせ履歴は、顧客からのメッセージだと考えられる。これらのメッセージを蓄積し、1人1人の顧客が必要だと考えている物を最適のタイミングで提供できることがパソコンを利用した顧客管理の最大のメリットである。
顧客管理で大事な点は、管理するのは顧客そのものではなく、あくまでも顧客の「情報」であるということである。その意味で、パソコンなどの情報機器を利用した顧客情報の分析はこれからますます重要になってくる。適切なタイミングでDMを送付したり、特定の顧客層にイベント案内を送付したりすることが、可能になるからである。
また、パソコンなどを利用することで、パンフレットの制作費用や製作期間を縮減することも可能になる。必要な情報を必要な部数だけ制作できるので、版下制作費や印刷費などのコストを削減できるのである。
このように、大阪屋ではシステムを構築して、まだ一般の中小小売店ではなじみの薄いデータベース・マーケティングに取り組んでいる。近い将来、このことが当たり前になってしまったときには、すでに各種のノウハウを蓄積し、他店の数歩先を歩んでいることだろう。
―実際には、どのようにしてDMを出しているのですか。
「システムを新しくしたときに、それまでのデータを全部掘り起こす意味で、7400件全部にDMを出しました。このとき、半分くらいは宛先不明で戻ってくることを覚悟していたのですが、ほとんど宛先不明の戻りがなかった。ということは、顧客のデータは常にこまめに修正していたので、お客様のほうが定期的に注文を出していてくれたということなんです。データとして生きていたのが、何よりもうれしかったです。
小売店でDMを出した場合、年間で16〜18%くらいの割合で注文等の戻りがあればよいのではないかと言われています。
うちの場合はイベントに合わせてDMの発行先を選び、小さな件数を何回も分けて出しますので、この戻りの確率も高いようです。催事により、切り口はいくらでもありますよね。例えば、ワインだけのお客様、ワインと焼酎のお客様、地酒にこだわるお客様。いつでもいろいろな催事をしているので、それに合わせてDMを出すうちに、どのような形式であれば喜ばれるか、戻りが多いか、などのデータも蓄積されるようになってきました」
―登録件数のうち、県外客は何割くらいですか。
「約9割です。これらの県外客の売上げが全体の20%以上を占めるまでになりました。県外客から注文の電話があったときに、登録されているとすぐに検索できて、注文を迅速に受けることができます。
また、送り主と送り先にハガキを送付しますから、不手際などの事故も最小にくい止めることができます。店の信頼にもつながりますし、お客様にも安心していただけます」
イベントや企画商品ごとに戻りの結果が把握できれば、売れ筋商品を次の企画に生かすことも可能になる。
パソコンを使って次にチャレンジできる可能性といえば、インターネット通販があげられるが、現在はまだ時期尚早とみている。しかし、固定客を増やすために今まで取り組んできたきめ細かな販売を生かせば、インターネット通販の分野でも活路を見出せるに違いない。
県外客は顔が見えない。それだけ店と顧客との交流が希薄になるわけで、データベース・マーケティングをいかに活用していくか、情報化のより前向きな取り組みが顧客との長いつきあいに発展していく。
2001年には酒の免許制が廃止されて、誰もがこの分野に参入できるようになる。このときにどこもまねのできない専門店をめざして、今、大阪屋はできる限りのノウハウを蓄積しているところである。
繁盛店のノウハウ
☆地元の客には地酒とワイン、県外には地元の焼酎を紹介してファン拡大を図る。
☆こだわりのオリジナル商品をつくる。
☆試飲スペースで酒の文化を伝える。
☆独自のイベント、セット商品を考える。
☆データベース・マーケティングに取り組む。
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