蔵元から信頼される店に
千葉市の海側と住宅地を結ぶ千葉都市モノレールみつわ台駅から数分のところに、「日本一の酒屋」と経営者島影昭吉社長が豪語するシマヤがある。地酒とワインの豊富な種類と品揃え、最高の酒を味わえるという満足を提供できる品質管理のよさ、マスコミに登場する頻度、酒店の将来を追求した多角経営の姿勢など、「うちよりも売上げが多いディスカウンターはあるが、個人商店で、ここまで質的に深い経営をしているところはない」と胸を張る。
平成不況が言われるなかで、次々と攻めの経営に着手してきた。『地酒の殿堂』と讃えられる1階店舗では、全国200社の蔵元から集められた2000種類、約2万本の酒が扱われている。ワインも地酒に匹敵するほどのこだわりの品揃えを誇る。
シマヤの2階には、80銘柄の地酒をそろえた居酒屋がある。隣には、イギリスの手造り車を販売するガレージシマヤ。その二階にワインがよく合う洋風料理のレストラン「遊菜亭」。ここ数年で立て続けに国道16号線沿いの「千葉北店」、「富里インター店」、「市川コルトンプラザ店」をオープンさせた。このほか、トンカツ酒房「蔵粋」、居酒屋「二十五里」(鎌倉幕府から当地まで25里の塚があることから店名にした)など飲食店3店を、酒の販売店に隣接したり、2階に配置する形で、営業している。
なぜこのような店にしたか。そして、困難をどのように乗り越えてきたか。これらについて、島影社長の言葉で語っていただこう。
「店舗を構えたのは七四年、周辺の宅地化がようやく始まり、ぽつぽつと住宅が建ち出した頃で、ここは原っぱだった。父がガソリンスタンドをするために、992uの土地を確保していたんだ。それで、私も自動車会社の整備部門に勤務して、ガソリンスタンドを始める準備をしていた。でもオイルショックが来てしまったので、当時、兄がしていた酒屋をやってみようかということになった。始めてはみたものの、1日3000〜5000円っていう売上げからスタートしましたよ。
この店も、始めは40uの小さな食品雑貨店で、ごくふつうの酒を置いていたのだけれど、ある日、『菊水』の最上品を飲ませてもらって目覚めたんだ。だけど、いざうまい酒を揃えようと思うと、なんとか会とかいろいろなテリトリーがあって、思うようにいかない。それで自分で蔵元回りを始めた。日本酒のセラーをつくって、蔵元が精魂込めたものをうちは万全の品質管理で少しずつ大切に売りますって働きかけた。セラーをつくったり冷蔵施設を整えたりと増改築を繰り返していったら、最後にはこういう店になった(笑)。
酒は生物(なまもの)だと思っている。良い酒は保管に気をつければおいしく熟成していくので、売れ残っても困ることはない。古酒として、さらに熟成していくんだから。
| 今、日本酒は、有名吟醸酒の品揃えなどいうまでもなく、シマヤだけにしかないブランドもある。オリジナルという意味でなく、蔵元の杜氏の名前がついた最高の酒。デパートで1本1万円という価格で販売されている有名銘柄より、うちで数10本販売している「限定酒」の酒のほうがうまい(笑)。幻の酒とも絶賛されるものが来るようになった。蔵元にも行くし、蔵元からも足を運んでもらう。店って、経営者にしてみれば、お城だよね。『どうだ、うちの店を見てくれ』と自慢したいものってあるよね。この店は97年1月に改装したけど、そんな思いがこもってるんだ。 |
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| 日本酒は約2000種類、2万本 |
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酒屋もそうだけど、蔵元だって現実は厳しいから、大吟醸だけでなくいろいろな酒をつくっている。だけど、労働力が不足してくれば、良い酒を大切につくっていこうという時代になる。そのときに酒を回してくれる店になろうと思ってきた。それが支店をもつという発想になった」
地下のワインセラーに3000種
「うちはワインでもよく取材がくる。地酒を始めてから5年くらいたったときに、ワインセラーの小さいのをつくったら、評判になった。現在、地下のワインセラーは100uあって、3000種、2万本を常に16℃で定温管理している。
そもそもワインを始めたのは、親戚にワイナリーがいたからっていうこともあるんだけど、コメの許可をとってコメの販売もしていたら、あまり売れないから夏場にコクゾウムシが出た。それで、コメの販売スペースだけクーラーをつけ、低温で温度管理した所に地酒を置いたら、うまいと評判になっちゃった。 |
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| 地下のワインセラーは3000種、2万本 |
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そのうちに、ワインは地下がいいって聞いたので4段くらい階段を降りる13uのセラーをつくった。当時、ワインはボジョレーブームで、ちょっと雑誌に広告したら、4トン車1台くらいボージョレーが売れた。それで、39歳(88年)のとき、自宅兼店舗を新築した。今は、1階が地酒とコンビニ店的な食品売場、コメとこだわり食品のコーナー、それに定温冷蔵庫を備えた倉庫、そして、地下全体がワインセラーになっている。
これだけこだわっていると、従業員も酒が好きだから仕事がしたいという人が来てくれる。給料なんか問題じゃない。やりがいなんだね。
ワインの担当者は、経験10年だけど、オタクの領域ともいえるほどで、ブドウの品種特性、ワイナリーの畑の特性と力量などを把握している。『自費でワインを飲んだ分でベンツが買える』って豪語しているけれど、ワインは理屈のこねがいがあるって喜んでいる。ワイン評論家がほめるとすぐに値段がつりあがるから、その前に安く仕入れてくれて助かっている。40代くらいまでの人ならば、誕生年のワインが揃っているのが自慢で、年代物は数百万円もするようなものもある。
どの店もそうだけど、社員に熱意がある。
日本酒もすごいけど、ワインも絶対すごいと思う。どこに出しても恥ずかしくない店をつくるから、後は社員の力だ、がんばってくれって、ハッパをかけているんだ」
配達をやめた理由
「どうやっていい従業員が来るのかって。いい店をつくれば自然にやって来てくれるけど、そうなるまでにはマスコミの力を借りたことも大きい。
この店を始めたときに、原っぱの中の一軒店で、とにかくお客が来ない(笑)。お客様のありがたさは、心底身にしみている。地酒にこだわり出したら、ぼつぼつマスコミに紹介されるようになって、広告も出すし、マスコミ掲載大歓迎という姿勢で20数年間やって来た。蔵元に、自分の考えとかを書いてFAX通信みたいなのを300件くらい流しているのだけど、記事掲載されたものについても送るようにしている。あ、がんばっているなと思ってもらえるからね。そうすると、蔵元がマスコミに掲載されたものも教えてくれるから、そういうのをコピーして店に置くようにしている。蔵元の宣伝にもなるし、何よりもいい商品説明になる。
個人商店は『経営者を売らないとだめ』といわれるけど、私は、あくまでも『店と商品が物を言う』と思っている。店主がいなければ客が帰ってしまうという店では、自分の身が持たない。うちは長時間営業で年中無休。私も自分の時間はほしいから、自分がいなくてもいい店をめざして店づくり、従業員教育をしてきた。業種が違っていても、いいと思ったらすぐに取り入れている。最初はまねから入るけど、だんだん自分の店になじむものになっていくから不思議。
多角経営を自分1人でしているのも、将来、子供たちにそれぞれの業種を伸ばしてほしいと思っているから。従業員には、子供たちが修業して戻って来たときに、子供たちに教えられるようになっていてくれって頼んでいる。その辺りを意気に感じてくれるみたいだ。
長続きする社員を育てるという意味で大きかったのが、配達をやめたこと。入社した社員に配達を頼んだら1週間でやめてしまったときに、これではだめだと考えた。
だから、うちは、来店できないお客様には、たとえ千葉市内であっても宅配で対応するという姿勢を打ち出してきた。発送量を多くして少しでも運賃負担を軽減してもらおうと、インターネットにホームページを開設したり、ニフティのパソコン通信でシマヤファンのフォーラムを開いて、固定客を開拓してきた。業務用の飲食店だけでなく、個人のファンが多いと思っている。
配達って、人件費をサービスしていることになる。宅配料をお客からもらうことにはなるけど、ほかでは入手できない酒とか、多くの中から選べるとか、満足する度合いも大きいから、注文してきてくれる。そして、いつかうちの店に行ってみようと楽しみにしていてくれる。現実に、東京に出張に来たから、わざわざ足を伸ばしてくれるという人も出てきた。そういうのって本当にうれしいし、ありがたい。それで、どうせ来るなら夜においでよって。2階の居酒屋で一緒に飲めば、ますますシマヤファンになってもらえる(笑)」
「飲食店や居酒屋が来て『届けて』と言われても、断っている。その代わり、どんなに店舗数が多いチェーン店の注文であってもこたえられる。
今、不況だと言われるけれど、販売した金が回収できないから不良債権になって店がつぶれてしまう。うちは、一物一価。全部同じ値段。たくさん買ってくれても、値段は引かない。だから、私だって、仕入商品の支払いは早いです。蔵元や業者は基本的に大事にする。そして値段については値切ったりはしません。
それから、ここでは、個人客にせよ、業務用にせよ、テイスティング(試飲)は一切させない。自分で飲むものは自分で買って、とお願いしています。
配達しない、試飲をさせない、というとシマヤは不遜だと思う人もいるかも知れないけれど、一応は取り組んでみて経験を積むという授業料を払ってやめたこと。結果だけでなく、その過程をみてほしいって思う。
配達をやめて1億円伸びたよ、と言ったら、この周辺に同業店が13店あったけど、みんな配達をやめて、今はコンビニ店になっちゃった。うちはコンビニ的な食品もおいているけれど、酒にとことんこだわっている。ワインブームだからって今からワインセラーをつくったのでは、完成したときにはブームが終わっているかもしれない。ブームにかかわりなくシマヤはファンを育ててきたし、これからも長続きすると思っている。
自分の飲む酒はまず買ってみることが1番大切だと思う。その代わり、店内を見るのは自由で、冷蔵室に入ってもいいようにしている。お客が自由に選んでくれると、人件費が助かるもの。わからないときに聞いてくれれば、アドバイスはいろいろできるわけだから。
試飲ができないといっても、2階の料飲店では、取り扱っている80〜90銘柄を利き酒できる。酒屋が始めた居酒屋だから、酒はうまいし、安い。だから、こんなに辺鄙な場所でも、わざわざ来てくれるんだ。自分で酒探しの苦労をせずに、よく出入りの酒屋まかせにしてバカ高い値段で酒を飲ませる店があるけれど、それじゃ繁盛しないよって言っている。自分で飲食までやっているから、コンサルティングもできるのが強い(笑)」
関連食品は味と安全性にこだわる
「ディスカウントショップと価格競争をしては、苦戦するのは目に見えている。だから、うちは地酒とワインではだれにも負けない店にしたのだけれど、よく見ると、ディスカウントショップでは、地酒は値段が高いんだよね。ディスカウントショップではまねができないように、酒通にアピールできる販売をしたことがよかったようだ。
ワインも、品質や味にこだわって、安いワインであってもおいしいのがあるというアプローチで客を育てていった。
正直言えば、ビールが好きな人はディスカウント店で買ってくれればいいと思っていた。この周辺にはディスカウント店がたくさんあるから、『シマヤのビールは高い』って言われていた。高い、といったって定価なのに。
でも、『このままだと、ビールだけでなく、シマヤの酒は高い、というイメージがついてしまうよ』と忠告してくれた人がいたんだ。それで1本だと定価販売だけど、まとまれば他店と同じ価格設定にしてみた。そうしたら、ビールを目当てにきたお客でも地酒やワインを買ってくれるようになった。来店のきっかけになるために、他と同じ安いものを置くとよい、ということがよくわかった。お客さえ来てくれれば、損して得とれ、になるんだね。
酒と関連した『酒の肴』の意味で、こだわり食品も置いているけど、これは、正直言って、なかなか売れない。味とか、安全性にこだわったものがブームになっているから、これからなのかも知れない。みそとか、しょうゆなども、原料や製法を吟味したものばかりだから、うまいと思うのだけど。
食品については、1部メーカーに頼んで、うちのオリジナル商品として扱っている。だって、うちで買ってこれはいいと思うと、後はメーカーに直接注文されたらいやじゃない。せっかく『おいしいですよ、いいものですよ』って販売しているのに。
コメも、酒と同じように品質管理をして、一時は、月に15トンも売っていた。つきたてはうまいというので、精米したのを1週間しか売らないことにしたら、1週間目は本当に客が少なくなってしまう。だから、玄米を並べ、精米機を置いて、つきたてを持ち帰ってもらうシステムに切り替えた。今はコメの販売店が増えて、いくらでもスーパーで安いコメが買える時代だし、コメを食べる量が減ってきているから、月に2トンぐらいしか売れない。
関連食品も味にこだわっているというのは、まだ目に見える効果ではないけれど、シマヤの姿勢を示す意味ではむだになっていないと思う」
関連する飲食店を手がける
「シマヤの二階にある居酒屋には、シマヤで買った酒を持ち込んでもいいことになっている。持ち込み料金は720ミリリットルで1000円、1.8リットルで2000円。1合500〜700円台を中心に、蔵元から一斗樽や小型タンクごと買い取ったものなどあって、なかなか一般のお店では飲めないような酒もある。
飲食店を併設すると、酒店で扱う酒をすぐに楽しんでもらえるからいいよね。それに、多くの種類を飲んでもらうことで、好みの酒を見つけられる。ベストな状態で酒を提供できるので、酒本来のおいしさを知ってもらえるということもある。
同じフロアーで、居酒屋の隣はシマヤのギャラリーになっていて、地元の作家を中心に、版画、絵、器などを展示販売している。酒は文化だと思っているから、ちゃんと文化を提供しているんです(笑)。座敷があり、芸術鑑賞に浸りながらの会食はいかがですか、というのを売りにしている。
ガレージシマヤの2階にあるレストラン『遊菜亭』は、ワインを広めたいと思って、96年頃に始めた。おいしいワインを味わうには、おいしい料理を提供することがまず基本と考え、魚類はシェフ自ら市場で選び、鴨やフォアグラはフランスからの直送ものを使用している。
はじめはワイン片手に恋人同士の語らいの場に、と高級フランス料理店をイメージしていたけど、そのうちにスパゲッティメニューとかいろいろなものをやって、ファミリーから商談まで間に合う店になった(笑)。
それから、市川店は、2500台もの駐車場を完備したニッケコルトンプラザというショッピングセンター内にある。ここは、1年目の暮れに230万円も売ったけど、これからどんどん発展すると期待している。国道16号線沿いにある千葉北店は1日で6万〜7万台の車が目の前を通る。まだお客は少ないけど今にきっと評価されるという自信がある。
そこにあるとんかつ店では、肉はSPF豚肉を使い、コメは新潟産コシヒカリを使用して、味にはこだわっている。
どの店も、周辺にはディスカウンターの出店がすごくて、航空母艦みたいにでっかいのがある。そのすぐ前でやっている店もあるけれど、こだわった店、競合店にはできないことをやっていけばだいじょうぶだ、とこの点だけは確信している。
現に、近くに強力なコンビニ店が出てきたときに、売上げをカバーしてくれたのは、ワインだった。 景気の悪いときに儲かっていいなぁって言われるけれど、うちは、新店を出してどれぐらい借金があることか。だから遊んでなんかいられない(笑)。
蔵元からは『また、つくったの!』とびっくりされるけれど、『店を全部見に来て!絶対合格点だから』って自慢している。いろいろなスタイルの店があったほうが、いろいろな売り方をして、お客が何を好むか実験できるでしょう。
98年9月オープンの富里店は、駐車場40台つき、瓦屋根で、2階をセットバックして、宿場町風にアレンジした。1階はコンビニスタイルでちょっと価格志向の店、2階は100uくらいのセラーをつけて、隣のスペースはこだわりの酒を用意した飲食店にした。成田空港に近いから、成田空港の土産物とか飲食にもの足りない人が来てくれるような店を目指している。世界中を回っておいしい味がわかるパイロットなどが来てくれればいいですね。
宿場町みたいな業種を近隣に並べて、憩いの場みたいになればいいなぁと思っている
酒屋は、1〜2億円の規模のときが1番難しい。でも、4億円以上の規模になると、経費も多く使えるから、駅や雑誌、新聞などいろいろなところに広告も打てるようになる。だから、一定水準以上の売上げを目標にすることが、後の業務を楽にすると思う。
酒の各種銘柄を紹介し、シマヤの記事が出ている本には、うちの広告を入れて特注別刷りにしてもらって配布しているけど、すごいPRになっている。各媒体に紹介された記事はコピーをとり、コピーした裏側に推薦銘柄などを書いてPRしている。情報はできるだけ多いほうがいいから。お客が来たときに、酒だけでなく、情報の多さにも感激してもらえるようにしている。
商売を通じて、いろいろな知り合いができた。それで、千葉県でも自然に恵まれた養老渓谷という所に、『養老 昭平庵』という山荘をつくったんだ。野生のタヌキも出るほど静かな所。ここで、酒を愛し、楽しんでほしいという催しをしている。道楽みたいだけど、こういう夢のあるスペースをもてたのは、幸せだなぁと実感している」
異業種を含めてすべての経理をみているのが、とも美夫人だ。島影社長によれば、「1歩下がってしゃしゃりでない人」。夫人と社員には、感謝し続けている。
地酒類の倉庫の隅に、ひっそりと常滑焼の「招き猫」が飾られていた。そして、自宅の事務室にある棚にも、各地で集めたという趣味の招き猫がたくさん飾られていた。見えないところで、そっとご利益を願う。島影社長のそんな一面を猫たちが応援しているようでもあった。
繁盛店のノウハウ
☆地酒とワインに徹底的にこだわる。
☆いいことはまねでもよいから取り入れる。
☆酒と関連したこだわり食品を扱う。
☆酒と食を提案するため、飲食店を併設。
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