top

Home

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
せいか研修セミナー「八百屋塾」
平成13年度 第12回 3月13日(日)開催


 平成13年度の八百屋塾もいよいよ最終日を迎えました。市川理事長が塾生たちの1年間のガンバリに対してねぎらいの言葉をかけ、「食は命です。皆様方一人一人に食が生きています。したがって、食材も命ではないかと思います。皆様の扱うダイコン、ニンジンは口の中に入ると必然的に命に変わります。みなさんの毎日の仕事は素晴らしい――そういう意識をもって厳しい商戦に打ち勝っていただきたいと思います。この1年間勉強した成果はお金ではかえられないものを生み出したのではないかと思います。これまで学んだことを、明日からといわず、今日からのご商売に反映させていただきたい」と力強く激励しました。

 修了式の記念講演として、足立己幸先生が表題のテーマで講演した後、塾生のみなさんに修了証が手渡されました。平成14年度は新企画で実施されるので、またフレッシュな気持ちで勉強しましょう。


食生態学から、青果商の方々へお願いしたいこと
 

 女子栄養大学・大学院教授 
       (食生態学・国際栄養学)

足立 己幸


 1.  はじめに
 
 今、日本の食料自給率(カロリーベース)は40%で、輸入の比率が高くなっています。世界中でこれだけ自給率が低いところはないといわれています。日本の食料自給率が40%だというと、外国の栄養学者はそんなはずはないとか、信じられないとか言いますが、それほど異常なことなのです。地域の人たちに何を食べてもらうか、日本国内で生産されるもの、輸入されるものの中から質的にも量的にも選んでいくのは、流通に携わっている人たちです。こういうものを生産してほしいという要望を出すことさえできます。

 どんな野菜を地域の人に提供するか。それを決めるのは青果商そのものずばりであって、みなさんが担当する地域の中で、人々が何を食べているかという、かなりの部分をとらえていかなければいけません。
 食行動は、食べる、作る、それらをいろいろな人と交換して伝承していくという3つの行動から成り立っています。

 図1の右側半分は食料の流れを示しています。下から上へ見ていくと、食事をするために料理を作る→その食材を飲食店・食料品店・青果店などから選ぶ→さらに、それらの店には、産地や食品メーカーなどから品物が入ってくるという流れがあります。最近は外国市場からの輸入物も増えています。

 情報の流れについては図1の左側を見てください。各種調査を見ても、買い物をするときに影響を受けているのはマスコミの食情報がトップ、次に小売店があげられています。小売店は、物流のキーパーソンであるのはもちろんですが、情報のキーパーソンでもあるわけです。ですから、青果商を営んでいるみなさんが間違った情報を伝えると、その影響力は非常に大きいということがわかっています。
 「八百屋塾」のように、フードシステムの川下からの学習は少ないのが現実です。その意味からも、ぜひみなさんにがんばっていただきたいと期待しています。

 2.よい食物とは? 

   計り知れない食物の価値

   日本人にとって、ごはんとパンとどちらがよい食物か

 「よい食べ物とは?」という質問には、なかなか答えられません。
 日本人にとってごはんとパンとどちらがよい食物か?という場合、栄養面だけからみても、どちらがよい食べ物かの答えは難しいのです。
 「栄養」というのは、「栄養素」とは違います。栄養は、生物が外から栄養素をとりこんで必要な成分にして組み立て直してできるもので、「ニンジンに栄養がある」というのは表現に誤りがあります。栄養というダイナミクスがあるのは体の営みであって、ニンジンの中には栄養素が入っているだけにすぎないのです。
 栄養素にもたくさんの種類があり、その中の一部は体の中で自家生産できますが、自家生産できない場合もあります。それらが全部チームワークで機能するのですが、同じ食べ物であってもその人の体調や年齢などにより、代謝というか、利用効率は違ってきます。

 では、含まれている栄養素だけで考えてみた場合、どうでしょうか。
 図2は、10歳女子の1食分の米、小麦各70g弱に含まれているエネルギーや腫瘍な栄養素の含有量を、10歳女子の栄養所要量に対する摂取率で示したものです。エネルギーが同じ場合には、材料、食材レベルではあまり差はありません。

 次に、図3では米、小麦、どちらも必ず料理して食べるものですから、ごはんとパンという料理レベルで比較をしてみました。
 ごはんは米に水をあげて炊飯するだけです。パンは発酵段階でいろいろなものを加えます。では軍配はパンにあがるのかというと、そうともいえません。食べ物の中にどのようなものが含まれているかを研究するのは栄養学ですが、私は、行動との関係で食べることを学ぶことも必要かと考え、食生態学という学問をおこしました。

 私たちが、実際に食べるときには、おかずと組み合わせて食べます。今日の食事がよいかどうかを知りたい場合、栄養素レベルでなく、食事レベルでなければほしい答えにはならないのではないかと考えます。

 ごはんのある食事のふつうの組み合わせ(図4-a)では、栄養もとてもよいバランスになっています。
 図4-bの「パンのある食事b」は子供たちの6〜7割がよく食べている例です。こんな食事をしていたのでは、体は成長していきません。ですから、パン食の場合はトーストやハムエッグなど栄養分がとれるものを一緒に食べることが望ましい(図4-c)。しかし、そうなると脂質があがってきてしまい、多く摂取しすぎると生理上問題があるといわれています。こんなことをいうと日本食に偏ってひいきしているのではないかといわれますが、ごはんとパンとでは栄養レベルではあまり差がなくても、料理レベルでみると、加工のプロセスでプラスされてくるものがあるので、ごはんのほうが食事全体の栄養価を高めるのです。

 だれと一緒に食べるかで、食事内容も違ってきます。個食の栄養学的な課題を出したのも私たちの研究チームです。結果からいえば、一人で食べるときにはパン食が多く、世代が違う人たちが一緒に食事をするときにはごはん食が多いということがわかりました。

 狭山茶についての調査をしたときには、日常的にお茶を飲んでいる子供たちはごはん食が多く、ごはん食と日本茶とのつながりも深いことがわかってきました。

 食事を作る行動ともつながっています。買物や調理、後片付けなど、食事に関する手伝いを日常的にしている子供たちはごはん食の割合が高いということが調査結果にも表れています。ごはん食の場合は、はしを並べるといったお手伝いが日常ふつうに行われています。

 野菜料理をちゃんと食べている人は主菜をよく食べています。こうしてみていくと、食材レベル、食事レベル、行動レベルとそれぞれ違った答えが出てくることがおわかりでしょう。パンとごはんを比べた場合、ごはん自体は味がついていないだけに、他のおかずをつれこむ性格があるのです。他の料理との組み合わせを必要とした結果、それぞれが持ち味を出し合って、食事全体の栄養価やおいしさを高めてくれる。つまり他の料理を食事へと積極的にリードする力があるということで、私は、「リード性」という言葉を使っています。

   トンガ人にとって、ココナッツジュース
   と缶ジュースとは?

 トンガ王国は人口約10万人、170ぐらいの島からなる国ですが、一見肥満体の人が多いにもかかわらず、生活習慣病の人や成人病が少ない。これは医学でも栄養学でも説明できていません。

 ただ特徴的なのは、トンガ人の場合、1日にイモ(タロイモ、キャッサバ等)を男性で3kg、女性で2kgと大量のイモを食べることです。イモに、魚、ココナツジュース、調理バナナなど6品目くらいを組み合わせて食べます。特に、ココナッツジュースを飲んでいる人たちは、健康な人の比率が高いことがわかりました。ココナッツは脂分があるので殻の部分が燃料によいのです。彼らは大家族で食事をするので、ココナッツが多いのは調理と密接な関係があります。

 彼らがココナッツを取りに行くときには、夜は早く寝て十分な睡眠をとり、早朝からでかけていって働きます。(図5a)
 ココナッツジュースを飲んでいる人は、運動、睡眠をよくとっている人が多いことがわかりました。ココナッツが外貨を稼いでくれるので、人間関係も安定してきます。

 ところが、最近、金持ち層が缶ジュースを飲むようになり、かれらは健康状態があまりよくないということがわかりました。トンガの缶ジュースはサイズが大きいので、飲む量が多くなります。彼らは紅茶を飲む場合もマグカップに砂糖を山盛り入れてしまう。冷たくすると甘さがわかりにくくなるので、30gぐらい入れてしまいます。そうなると、ビタミンやミネラルは不十分なのに、特定の栄養成分だけが多くなります。

 缶ジュースを販売している店は4店ありますが、電気や水道もない島なのに、発電機を使ってビデオを何回も放映しているので、ついつい座って見てしまいます。仕事がなければほぼ一日中座りっぱなしなので、十分な運動をするチャンスがない。その店だけは電気がついていて明るいので、寝不足になるという悪循環です。(図5b)
 そのうえ、トンガでは、缶を処分する技術がないため、空き缶の山ができて環境問題が起きてきています。
 ココナッツと缶ジュースとどちらがよいか。栄養素だけで考えるのは大事ですが、運動や休息まで含めて考えないと難しいといえます。

 テレビの情報番組などでは、食べ物の特定の成分をとらえて、この食べ物がよいとしていますが、たいていはパーツ的なとらえ方です。私はそれは違うと思います。全体の食品の中でどうなのかを、あわせて考えないといけません。それでは、暮らしから離れていって実験室と同じ結果になってしまいます。

 3 食事の中での野菜料理
 
 どんな食べ物をどう組み合わせればよいのか。私は国のワーキンググループに加わり、これらを一目で見てわかるようなビジュアルガイドを作りました。

 この中の図では、食事レベル、料理レベル、栄養素レベル、階層性、階層構造を示しています。ここで示しているのは、栄養をとる際の代表的な料理です。主食50%、主菜は20%、副菜は25%と、副菜を多くするようにしました。従来の食事では、肉や魚の主菜が多くなっているので、生活習慣病が多発しているのです。主菜だけが膨張し、副菜である野菜が減っているのが問題です。副菜料理の材料である野菜は、1日350g食べればよいとされていますが、料理のなかの半分の量を占めないと十分な量とはいえません。

 副菜としては、野菜がたっぷり用いられているもの、たとえばみそ汁、サラダ、炒め物、煮物、あえものなどの絵が描かれています。野菜にはビタミン、ミネラル、食物繊維などが豊富に含まれているので、もっとたくさん食べなければならないのです。主食50%、主菜20%、副菜25%を足すと95%になり、100%にはなっていません。ここで、私はゆとりの5%を主張しました。それが小さなはしごでかけられている、水分や果物のデザート類です。ここにはお酒がありません。お酒を書いてしまうと、酒をとらなければいけないという人がいるかもしれないからです。料理で95%、ゆとりで5%を合計して100%です。

 国際学会でこの図のことを紹介していますが、食卓と料理と材料と栄養素が構造的にわかる表現が他国ではされていないので、日本に学ぼうということでだいぶ参考にしてもらっています。

   「お弁当箱ダイエット法」から

 何をどれぐらい食べればよいのか。これはお弁当を物差しにするとカンタンです。食べ過ぎず、また、栄養が不足せずに、健康な体にする「お弁当箱ダイエット法」は、3:1:2の割合で詰めると必要な栄養素がとれてしまうというものです。どんなに栄養の知識があっても実践しないとだめですが、面倒だなと思う人にもこれならばやれるという法則を考えました。

1.まず自分に合ったお弁当箱を選ぶ。
2.お弁当箱の中を、主食は3、主菜は1、副菜は2の割合で分ける「3:1:2の法則」。
3.主菜と副菜は、同じ調理法のものにならないこと
4.お弁当はぎゅうぎゅうでも、すきすきでもなく、中身が動かないようにしっかり詰める。
5.でき上がりがおいしそうな彩りになるようにする。

 このやり方だと目計りができるようになるので、続けていると体が順調によくなってくることが確認できます。
 自己チェックすることが21世紀の健康づくりのキーワードです。そこで、食生活に関する行動プランを自分でチェックできる「食生活チェックシート」も考案しました。
 世界では8億人が不健康で、4万人の子供たちが飢餓で死んでいます。今、健康づくりという点で最も注目されているのは野菜類です。野菜料理が入ることで食卓や食事全体が明るくなります。そこから愛が伝わってきます。

 青果店のみなさんは、地域の食のコーディネーターであり、地域の人たちの健康づくりのキーパーソンです。地域の人たちが情報を得る最も身近な手段はテレビですが、二番手は販売店だそうです。どうか、その意味でがんばっていただきたいと思います。


右は江澤正平先生、左は八戸市中央卸売市場の青果仲卸会社「有限会社マルト」有馬克美社長。この日はリンゴジュースを参加者に持ってきてくださいました。

皆勤賞の表彰を受ける宍戸さん夫妻、ちなみに賞状とお鍋