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■芦澤正和先生の話
■F1について (お断り:F1と表記しているのはF1
のことです)
・我々が使っている品種は固定種と一般には言っています。それに対して交配したものをF1といっています。固定種は、Aという品種があればそれを受け継いでいきます。
・F1は、AとBをかけて1代だけとり、あとはまたA×Bを作っていくという形のものです。F1が良いのは、AとBのそれぞれ良い性質を兼ねもった品種ができるということです。しかし、そう簡単に良いもの同士がくっついてくれるわけはなく、良いものと悪いものがくっついたり、悪いもの同士がくっついたりすることもありますから、実際に仕事をしていく上では、良いF1ができるように多くの組み合わせを試した中から親を選っていくということになります。
・固定種を種苗会社は単種ともいいますが、これは特有の言葉なので、固定種と言った方がいいと思います。固定種は品質がきちんと決まっているという意味で、固定といいますが、遺伝学でいう固定(ある因子が常に同じである)とは違っていて、一つの品種として株間に大きなブレがないということです。
・現在、F1にできるものはほとんど全部F1にしてあります。F1にしていないのはエダマメのようなマメ類ですが、F1にしても採算ベースにのる種がとれないのです。ですから、F1にできないというよりも、F1として通用していないということです。
もう一つ、キク科のレタスやシュンギクも採算ベースにのるF1はとれません。そのほかは、F1にできるものはほとんど全部F1になっていて、花も最近は全部F1になっています。
・固定種のメリットは、採種体系をきちんと守れば毎年品種としてブレが少ないものがとれ、自家採種ができることです。ただし、採種体系をきちんと守れないと、望ましくないものができます。自家採種ができるので種子も大変安いということです。ただ、デメリットとしてはF1に比べると、斉一性が劣るというか、揃いが少々落ち、生産力も低いといえます。
・F1のメリットは、AもBも徹底的に揃えて掛け合わせ、いい子が出るという組み合わせで種をとりますから、雑種強勢が出て非常に栽培しやすく、豊産性で収量が多いということがあります。ただし、デメリットは、育成をするのに科学的な基礎を要し、しかもかなり長い年月をかけて作っていかなければいけないので、経費・時間がかかります。長期間その資本を寝かせることにもなるので、種子の値段が一般の品種に比べて非常に高くなるということがあげられます。
F1ができ、そのF1を分解してまた交配するということをすれば、比較的短い年数で新しいF1を作ることができますが、もとのF1を超えるものはできません。通常両親系統を選んで、F1に仕上げていくには最低10年ぐらいかかります。年数をかけて多大に投資をしても売れないという危険性も含んだうえでF1を育成していくので、大変値段が高くなるということです。
・F1を最初に作り出したのは蚕です。蚕は明治末から大正の初めにF1になり、昭和に入ると全部F1からとることになりました。F1
の親になる原蚕種、原々蚕種は国が厳しく管理し世界に冠たる絹産業を支えたわけです。最近は絹は大部分外国から輸入していますが、原々蚕種、原蚕種、特に原々蚕種は国が管理してもっています。
・植物としての最初はトウモロコシです。アメリカが開発した技術が使われましたが、日本ではナスが一番早く、大正年代にF1になりました。埼玉県浦和市(現・さいたま市)に埼玉県の農業試験場があり、そこで、浦和交配1号、埼玉交配1号というF1を作って売り出しました。
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その後、果菜類でずいぶん作られましたが、F1を作るには経費も労力もかかるので、戦争中に物価統制令が出てF1をとるのをやめました。戦後になってやはりF1がいいということになりました。最初は果菜類・ウリ科、ナス科の野菜でF1を採り出し、その後いろいろな種類でF1を採る方法を見つけ出しました。一番初めに出たのはキャベツ、ハクサイで、その後菜っ葉類が全部F1になりました。最後にF1になったのはネギです。それぞれの作物によってF1の採り方が違います。
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・F1のFはfirst(一代) filial(子供) generation(世代)の略です。子供第一代ということでF1となりました。親を二つだけでF1をとることもあり、親を三〜四つ使うこともあります。それをそれぞれ二元交配、三元交配、四元交配といいますが、現在は採種技術が非常に発達したのと、三元、四元になると揃いが悪くなるので、ほとんど全部が本来のF1の形である二元交配になってきています。
・一代雑種とよく言いますが、正確には雑種第一代です。雑種第一代というのは、そのあとに雑種第二代、雑種第三代というように、とるつもりならば種がとれる第一代であるという意味で雑種第一代というわけです。
一代雑種というのは種間、属間の雑種を作るので、生殖機能に異常が起こって、次代がとれないのです。ですから、ラバ(ウマ×ロバ)からラバはとれません。同様にタイゴン(トラ×ライオン)、ライガー(ライオン×トラ)などができていますが、それらができたというだけの話で、子供はとれません。
この場合、遺伝の約束事で、先に書くのがメス、後に書くのがオスなので、ラバはウマのメスとロバのオスを交配し生まれたものです。
・植物で一代雑種は比較的少なく、食料としてはほとんど出てきませんが、カボチャは洋種と和種の雑種として雑種カボチャができています。雑種カボチャは夏に強いということで作られましたが、最近はトンネル、マルチ栽培が発達し本来真夏に作れないはずのカボチャが作れるようになったのと、南から北まで産地が開発されて作られるようになったので、雑種カボチャはほとんど使われなくなりました。現在、雑種カボチャを使っているのは台木として使っているものが大部分です。
・F1は果菜類が戦前に出ています。戦争中にF1づくりは採算にのらないとして採種しなくなり、戦後に復活してきました。最初は果菜類だけでしたが、そのうちに葉菜も全部F1に代わりました。一番遅くできたのはネギですが、今では太ネギも細ネギもネギはできるようになりました。雄性不捻を利用して、葉ネギはタキイ種苗が、根深ネギはサカタのタネがF1の第1号を出しています。今あるネギのF1はほとんど全部が細胞質雄性不捻を利用しています。まだネギの中にはF1でないものもかなり使われていますが、だんだんとF1の方が勢力が強くなってきました。
軟弱野菜は、コマツナもホウレンソウもほとんど全部F1です。ホウレンソウは純粋の東洋ホウレンソウはなくなり、全部東洋、西洋ホウレンソウをかけたF1になっています。
・F1をとるのにはいろいろな技術があり、果菜類はほとんど全部人工交配です。種をとる雌の方の花の雄しべを全部ピンセットで取り除き、雄の花粉をもってきて花粉をかけてとるという形です。
葉根菜類では、雄性不捻、自家不和合、雄株抜取が使われています。雄株抜取はトウモロコシでよく使われています。メスに使う親とオスに使う親を入れておいて、メスに使う親の雄花を全部切ってしまいメスに花粉がかかるようにします。
・ホウレンソウは一般的には雌雄異株といわれていますが、異型花並有です。100%メスから100%オスまであって、その間にいろいろな段階のものがあります。雌花と雄花は比較的分かりやすいのですが、雌花にちょっと雄がついているとか、雄花にちょっと雌がついているとなかなか分かりにくい。
ホウレンソウも雄株抜き取りを使います。100%オス、100%メスが出る株があり、100%メスにオスの何%かというのをかけると必ず100%メスが出てくるという組み合わせがあり、それを探し出していくわけです。
ホウレンソウの場合、100%メスのつもりで作っても雄花がつくことがあり、これを抜き取らないと変なものが出てくるので雄株を抜き取っていきます。今では種子をほとんど外国でとっています。丹念に雄株を抜き取っていくという仕事はアメリカの高校生のよいアルバイトになっているそうです。
・アブラナ科の野菜、ダイコン、キャベツ、ハクサイは自家不和合性を利用してF1をとっています。花が咲くと同じ品種の花粉を受け付けなくなるというものです。学問としての自家不和合性は昔から分かっていたのですが、それを日本で初めてやったのはサカタのタネとタキイ種苗です。戦争の始まるころにサカタのタネがキャベツのF1を作り、販売カタログまで出したのに販売されずに終わりました。それで戦後になって第1号をタキイ種苗が「長岡交配1号」という一代雑種名で、ハクサイとキャベツを出しました。キャベツは日本で初めてアメリカのオールアメリカセレクションズに出て優勝したという記録があります。その後、各社がF1を出し、アブラナ科の野菜はほとんど全部F1です。最近人気の出ているミズナもF1です。
・自家不和合性を利用する方法を作り出したのは、禹長春さんです。この人は、父親が韓国人で母親が日本人、日本に生まれ、韓国語は全くできなかったそうです。農水省に勤めた後、タキイ種苗で仕事を完成させ、戦後三顧の礼で韓国に呼ばれ、韓国では「野菜の品種の父」として大きな記念碑が建ち、尊敬されています。
・100%自家不和合性にするには、蕾の時に除雄し、同じ株の花粉をつければ実がなります。花が咲いてしまうと同じ株の花粉では種ができないという性質を利用したもので、100%自家不和合性にするために、蕾受粉ということをします。
・採種体系さえ間違えなければ固定種は自分で種がとれるからいいといいますが、採取体系の中に何株から種をとるかということがあります。100株が基礎単位ですが、篤農家の人たちは、こうした学問が発達する前から株の性質をよく知っていて、たくさんの株の中から良い株を種のもととして選ぶということをしていました。
・雄性不捻を利用するのはセリ科(ニンジン、セロリなど)とユリ科(タマネギ、ネギなど)の作物です。雄性不捻は、花を咲かせて雄がだめな系統をきちんと作り雄(花粉のもと)を植えればとった種は全部F1になります。それで難しいのは、もちろん交配して良い能力が出てこないといけないわけですけれども、雄が全く出てこない系統ができると次に種子がとれなくなるので、維持するための系統を探し出すことが大変です。これはアメリカで解決をして日本ではタマネギやネギで利用されています。
■カボチャ
カボチャには3つの種があります。一番代表的なのはツルツルしている洋種(粉質)です。和種はイボイボがあり、凹んでいて果梗部が星形をしています。代表的なのは「日向カボチャ」です。ペポには金糸ウリや最近はやりのズッキーニなどがあります。
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様々なカボチャの仲間 |
日本はかつて和種が大部分でしたが、戦後逆転し洋種が90%以上を占めています。食生活が変化したということと、ビニール栽培が発達して洋種が作れるようになったので和種が少なくなったのです。和種は醤油で煮しめて食べるなど和食に向き、洋種はゆでたり、油炒めにしたり料理全般に向きます。それで肉質からいえば粉質が喜ばれて、粘質が少なくなってしまいました。
黒皮、青皮、赤皮があって最近は白皮栗が出てきています。白皮栗は大変粉質の強いカボチャです。
「錦甘露」は上を切って中の種の分をくり出してこれに肉詰めをするという料理に使われます。一般的に食べるカボチャではありません。金糸ウリは、そうめんカボチャはそうめんのようにして三杯酢で食べるので、そうめんカボチャ、なますにして食べるからなますカボチャなどと呼ばれています。
カボチャは完全に熟して食べますが、熟さないで食べる洋種カボチャもあります。
カボチャの原産地は新大陸ですが、和種では日本で発達したので和種と称しています。多くの品種があったのですが、食べなくなって品種がなくなってしまいました。 |