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■芦澤正和先生の話
■バイオテクノロジーについて
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7月に育種、8月に採種について話しましたので、今回はバイオテクノロジーについてお話します。
「バイテク」は大変有名な言葉になりました。バイオテクノロジーの言葉の短縮形ですが、バイオはbio(生物の)、テクノロジーtechnology(科学技術)のことで、それを2つ合わせてバイオテクノロジーといっています。そのまま解釈すると、農業は植物という生物、動物という生物を扱い、科学技術を組み立てて栽培や飼育をしているわけですから、典型的なバイオテクノロジーといえます。しかし、農業のことをバイオテクノロジーというわけではなく、特殊な操作をして新しいものを作り出す技術のことをバイオテクノロジーと呼んでいます。 |
バイオテクノロジーに属する技術は、「組織・細胞培養」「細胞融合」「遺伝子操作」と3つあります。
(1)組織・細胞培養
植物も動物も細胞でできていて、細胞が集まって組織を作り、さらに器官を作っていきます。その中の最小単位である細胞、組織を顕微鏡の下でメスで切り出し、培地で温度や光を調節して培養すると、新しい植物ができてきます。そのことを「組織・細胞培養」といっているわけです。「組織・細胞培養」はバイテクの中では古典的なもので長い歴史があります。この技術が使われているのは、イチゴ、カーネーション、キクなどです。サツマイモやジャガイモも原々種を作るときにこの技術が使われます。「組織・細胞培養」が特に植物で盛んに使われるようになった一番大きな理由は、ウィルスフリーです。ウィルスが入っていない苗を作るために「組織・細胞培養」、特に組織培養が使われています。
成長点は植物の先端部にあり、それがどんどん分裂を繰り返して葉や花ができていくのですが、成長点のある部分の組織を薄く切り出し培養してウィルスフリーの株を作るのです。そのときには「成長点培養」という言葉も使います。どうしてそういうことができるのかといえば、ウィルスも、成長点も、ともに分裂して大きくなっていきますが、成長点の分裂するスピードの方が、ウィルスが追いかけてくるスピードよりも速いので、一番外側だけを取り出すとウィルスが入っていないものができるわけです。それを培地の中で培養してウィルスフリー株を作るわけです。
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イチゴではウィルスフリー株を作って増殖させ、一般農家に渡す苗ができます。一般に、何回か植えるとウィルスが入ってきますから、また新しいものに戻って作るということをしているわけです。ウィルスフリーを作るとちゃんとしたイチゴができますが、サツマイモやジャガイモはウィルスを広がらせないために、特にジャガイモでは厳しい国家管理をしています。 |
10年位前からサツマイモでもウイルスフリーが使われるようになってきました。「組織・細胞培養」はバイテクの中では最も歴史が古く、いろいろなことができるようになっています。これは環境を壊すような変なものができるといって文句をいわれることがありません。元々あるものを元々あるように増やしているだけです。成長点を薄く切り出すときに少し欲張るとウィルスが入ることがあります。カーネーションなどもウィルスフリーの成長点培養の技術を使っています。
(2)細胞融合
「細胞融合」は、性的に交配できない(和合性がない)遠縁の細胞を融合させ、雑種を作ることです。ある植物の細胞と別の植物の細胞を培地の上でくっつけると全く新しい植物ができるというので大変注目されました。私が専門に研究していたキャベツやハクサイには軟腐病というこわい病気があり、これが出たら防ぎようがなかったのです。ところがイネやムギには軟腐病が全く出ないので、イネの軟腐病に強いという性質をハクサイに取り込めば軟腐病に強いハクサイができるのではないかと「細胞融合」という技術に期待したのですが、だめでした。
「細胞融合」として有名なのは、ポテトとトマトをくっつけたポマトです。一般の人は上にトマトが実って、地下にジャガイモができると誤解しましたが、実際には上の方になったものはこれがトマトかというような変なもので、下にできたイモはコブ状のものでした。いままで一緒にできなかったもの同士をくっつけるという意味では大変新しい技術でしたが、いまのところ全くどうしようもないという状態です。
オレタチは、オレンジとカラタチを細胞融合させて作ったものですが、これもできたというだけで役に立っていません。台木に使うという利用法も実用化されていません。25年位前にこの「細胞融合」という技術が注目されて以来、みんながバイテクの取組を開始したのですが、うまくいきませんでした。
(3)遺伝子操作
「遺伝子操作」は、細胞内の遺伝子だけを単離し、別の細胞に導入するという技術です。種が違っても遺伝子を取り出して別の植物に組み込み、遺伝子操作をしようというものでした。遺伝子操作では、遺伝子という小さいものを植物に移し、他のものに対しては全く影響を与えずに「病気に強い」とか「除草剤に強い」という性質を入れることができたので注目されました。現在、バイオテクノロジーというと「遺伝子操作」をさすほどに技術としては発達してきて実用性のあるものがたくさん作られています。
ただ、これに関しては環境問題に関心の高い人たちが、「遺伝子操作をして自然に存在しない遺伝子を入れたものを増やしたり使ったりすると生態系が壊れる」といって盛んに反対運動をしています。アメリカでは非常に多く使われている技術ですが、ヨーロッパでは反対勢力が強く、本格的には使われていません。
「遺伝子操作」には3つ方法があります。遺伝子は顕微鏡を高倍率にしないと見られないような小さなものですから、遺伝子を扱うのは非常に難しく、まず遺伝子という特殊な性質を見つけ、それを別の植物に組み込まなければいけません。
◇遺伝子を細胞に組み込む
遺伝子を細胞に組み込むには3つの方法があります。
1.アグロバクテリウム(土壌細菌)法
アグロバクテリウム(土壌細菌)に遺伝子を組み込み、それをふつうの植物に組み込みます。
2.パーティクル・ガン(遺伝子銃)法
非常に小さな金属の粒子に遺伝子をのせ、それをガン(鉄砲)でガス状にして打ち込みます。
3.エレクトロポレーション(電気穿孔)法
細胞に穴を開け、その穴から入れる方法です。
現在は、アグロバクテリウム法とパーティクル・ガン法が主に使われています。アグロバクテリウムは他の菌を使うので、いろいろな影響を及ぼすのではないかと批判されていますが、パーティクル・ガン法が他に対する影響がないということで注目されています。
■遺伝子の作用を制御する
もう一つアンチセンス法(遺伝的制御)があります。今までのものは外から遺伝子をもちこんで新しい形質を入れようというものでしたが、アンチセンス法は元々それぞれの植物がもっているものを削り落として新しい性質を作り出そうというものです。トマトは熟すると赤くなり、熟度が進むと腐りますが、その過程の非常に遅いトマトを作り出す研究などが有名です。
現在使われているのは、ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、綿などで遺伝子操作をした新しい植物ができ、市販されています。その大半はアメリカで作り出され、アメリカで栽培し世界中に輸出されています。日本では遺伝子操作で作り出されたトウモロコシや大豆などに危惧をもつ人たちがいるので、はっきりと明示しなければ輸入できないものがあります。しかし、遺伝子操作したトウモロコシは飼料で、ダイズは油をとるために入っています。
綿は人間が食べるものではありませんから、あまり問題はありません。ナタネはナタネ油として大部分アメリカから、カナダから少々入ってきますが、厳しく規制されています。トウモロコシ、ダイズにしても除草剤抵抗性と害虫抵抗性のある品種が多く使われています。
【会場からの質問】ともかく安全かどうかを知りたい。
芦澤先生:アメリカでは何も心配は要らないといっています。除草剤に強いとか、虫に食べられるのを防ぐとかで、人間に対しては全く影響がないという考え方で進めています。ヨーロッパではそれでもきちんとやらなければいけないという考え方です。私はあまり心配しなくてもよいという立場です。
最初の頃は、他の菌を使ってやるからおかしくなるのではないかという危惧がありました。アグロバクテリウムが人間に影響を及ぼすことはさしあたってありません。
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江澤先生:アメリカから輸入されたダイズ油はバイオで作られたダイズを使っている。問題なのはどういう影響が出るかということが10〜20年経たないとよく分からないということです。遺伝子融合のダイズを使っていませんとはっきり表示している業者もいます。けれども、自分が食べたくない人は食べないというようなことになっていないのです。豆腐を作るために、安全なダイズを生産してもらっている豆腐屋さんもいます。 |
芦澤先生:別々のものがかかって偶然できあがったものが数千年の歴史をかけて、片方はナタネ、片方はタカナ、カラシナになってきたという歴史があります。ごく最近ではキャベツとハクサイから作られたハクランがあります。ナタネ、タカナ、カラシナは長い歴史をかけて気に入らない性質を落としてきたので現在のように落ち着いたのです。ハクランはできてから50年位経ちますが、結球しないものもあります。日本ではいろいろ厳しいけれども、アメリカではそんな心配はないといっています。現実には飼料が使われている牛肉、豚肉、牛乳を食べているわけです。特に、油は遺伝子操作したものが入っていないとはいえない気がします。
江澤先生:無農薬で作っていても、絶対的に安全とはいえない。アメリカで20ヵ月以内の牛肉はいいといっても、アメリカの検査がどうなっているかが一番問題。牛肉の会社が全頭検査はできないところに問題がある。肉の場合、肉骨粉を食べた牛がBSEにかかっているかどうかだ。オーストラリアの牛は草を食べさせるからだいじょうぶといっている。肉骨粉がだめだという報告がきたのに日本はちゃんとやらなかったからBSEが出てしまった。今度は1頭1頭検査しているから今の和牛はだいじょうぶだとされている。
今のバイオテクノロジーの問題は難しい。絶対安全ということはないということを覚悟してほしい。 |